第11話 今日のデイケア
今日は火曜日。僕は朝八時三十分までに出勤して、スタッフ間の朝のミーティングで話す事を紙に書いていた。僕がスタッフルームで仕事をしていると、スタッフの上原博さん、高木紀子主任、上田志穂さん、笹田亮子さんの四名が出勤してきた。高木主任は、
「あら、山崎君。早いじゃないの」
笑顔だ。
「おはようございます。朝のスタッフのミーティングで話す事をまとめていました」
僕がそう答えると、
「おっ! 真面目じゃないか」
上原さんが褒めてくれた。嬉しい。やっぱり頑張っていれば見ていてくれるようだ。
「はい、ありがとうございます」
他のスタッフもそれぞれ上着を脱ぎ、ハンガーに掛けている。ミーティングは九時から。今は八時四十五分頃。交替で健康診断をする日。スタッフは全員で五人いる。二人ずつ午前と午後に分けて行って、最後の一人に高木主任が行く予定になっている。
そして、九時――。
「さて、皆さん。ミーティング始めますか」
高木主任が音頭をとる。
「今日の司会は上田さんだね。よろしく」
「はい」
彼女はのんびりとしたタイプの女性スタッフで、でも釣りが趣味だという。一緒に行く相手は、以前、聞いた話だと旦那さんや友人とらしい。主に渓流釣りが多く、たまに海釣りもやるらしい。外見は黒髪に背中まで伸びたそれを一本に縛ってある。顔付きからして目が細く、唇は薄いので神経質そうに見える。身長は多分百六十センチくらいで瘦せ型。
「おはようございます。それでは、皆さん。今日のミーティングを始めたいと思います」
高い声だ。僕は手を挙げた。
「今日は僕が最近思っていることをテーマに話したいと思っているんですけどいいですか?」
高木主任に目配せを送ると、頷いたので僕は話し始めた。
「最近、思っている事はプログラムがマンネリ化している様に感じます。メンバーさんも飽きてきている気がして、メンバーさんやスタッフで新しいプログラムを作ってはいかがでしょう?」
高木主任は、
「山崎君。貴方、なかなか目ざといわね! 実は私(わたくし)もそう感じていたのよ。その声が上がるのを心待ちにしていたの。それはメンバーさんや、スタッフに限らずにね」
僕は思わず笑みを浮かべた。
「なので、朝のミーティングでメンバーさんに話そうと思ってします、高木主任いいですか?」
「もちろんよ」
「わかりました、ありがとうございます」
その後はメンバーさんの様子とか、体調の話しなどをして九時半前に朝のミーティングを終えた。
九時五十分からメンバーさんも含めた朝のミーティングがある。そして、十時からプログラム開始。それを終えたあと、僕は皆の前で挙手をした。高木主任が、
「山崎君から皆にお話しがあるの。聞いてね」
「はーい」
と、バラバラに返事が返ってきた。これ自体やる気がないのでは、と僕は思った。
「最近、感じた事を言います。メンバーの皆さん、最近プログラムがマンネリ化してきていて飽きていませんか? なので、時間を設けて新しいプログラムを皆で作ろうかと思っています。皆さん、よろしくお願いします」
メンバーさんは黙っている。何故? そこで高木主任が言った。
「皆! 山崎君のお話聞いているなら返事してね!」
「はい」
数名がまたバラバラに返事をした。
「それと返事は大きな声でね!」
「はーい!」
さっきよりは声も大きく、まとまりがある。高木主任は満足気な表情になった。僕は思った。メンバーさんに対して優しいだけじゃ駄目かもしれない。高木主任のように厳しさもメリハリがあって必要だと思った。
因みに高木紀子主任は多分四十代後半で、体格は結構太っている。髪型は白髪混じりのショートカット。自分にも周りにも厳しい人のようだ。書道が得意なようで、確か七段だと言っていたと思う。どうやら読書とお酒が好きらしい。婚姻歴は二回離婚している、バツニというやつ。子どもは二人いると以前言っていた。
ふと、思い出した。神崎奈々の事を。少しは気持ちの整理がついただろうか。心配だ。やはり、仕事中でも彼女のことを思い出す。それだけ思っているという事か。
今日の午前はスポーツ。ミニバレー、卓球、サッカーなどの中から選んで活動する。因みに今日のデイケアの参加人数は十三名。若者から高齢者まで幅広く参加している。僕はスタッフなので、スポーツをする体育館で見守っている。人が足りない時は、参加するという感じ。卓球は四名のダブルスで試合をした。メンバーは
「全員若者だね」
僕は大沢恵に言った。
「そうですね」
彼女は体調がいいのか、笑顔で対応してくれた。メンバーさんの体調がいいと、こちらも嬉しくなる。因みに僕は中学・高校と卓球部だった。大会にも参加して、個人戦で三位になった。これだけが自慢。それを、三人に言うと、
「それなら勝てっこないよー」
対戦相手の青木優斗はぼやいた。川森りあは苦笑いを浮かべるだけで、特に発言はしなかった。気分を害しただろうか。まあ、気にしたらキリがない。大丈夫だろう。
早速、卓球の台を体育館の中央に移動してきて、ネットを張った。再度、じゃんけんをして先攻と後攻を決めた。大沢恵にじゃんけんをして貰ったが、負けてしまった。まあいい。
正直、どちらでもいいと思っている。
結局、三試合やって僕と大沢恵のチームが圧勝した。
「イエーイ! さすが、山崎さん! あたしはほとんど何もしてないから、疲れてなーい」
彼女は満面の笑みだ。
「ちぇっ、いいよな。恵さんは。山崎さんと組めて」
青木優斗は悔しがっているようだ。でも川森りあは、
「仕方ないよ。また、今度やろうよ」
「そうだな」
あっさり納得したようだ。
僕はスタッフルームにいる高木紀子主任に話しがあったので向かった。スタッフルームは四階にある。ドアをノックした。すると、
「はい」
と中から声がした。
「入ります」
言いながら入った。
高木主任は不思議そうな顔付きでこちらを見ている。
「どうしたの?」
「皆で新しいプログラムを作る話ですけど、来週の月曜日辺りはどうでしょう? 午前中はフリータイムだし」
「その話はスタッフ皆で決めましょ。二人だけで決める訳にいかないから」
「分かりました」
そう言って僕は皆のいるデイケア室に戻った。
昼休みになり、昼のミーティングが十一時五十分から始まった。皆は既に席についていて、ご飯やおかずが載っている配膳車と、テーブルを拭くメンバーをそれぞれ二名ずつ決めなければならない。
それぞれの分担を決めて、昼食の準備を始めた。
盛り付けと運ぶ人に分かれて進めた。年老いたメンバーさんは運ぶ方に回ってもらい、若いメンバーさんは、皿に盛り付けていった。ちなみに今日のお昼はカレーライス。美味しそうな匂いがする。あくまでもスタッフは見守り。どうしても作業が出来ない、上手くいかないようなら声を掛けるけれど。当たり前の事かもしれないけれど、若いメンバーさんの方が失敗は少ない。カレーをこぼしたとか、皿を落として割ったとか。
昼食も美味しくいただき、午後からは皆で読書をし、その感想等を言ったりして過ごした。いつもの事だが、帰る頃には皆は疲れている。
メンバーさんで帰る人は帰って、送迎で帰る人は病院の玄関で待っている。スタッフはスタッフルームに一旦集まり、僕と上原博さんと二人で送迎に出掛けた。
ワゴン車に乗っているメンバーさんを全員送ってから、病院に戻りスタッフルームですぐに夕方のミーティングが始まった。高木紀子主任と日中話したことを他のスタッフにも話した。明後日、木曜日の午前のフリータイムで新しいプログラムを皆で話す、という案は賛成してもらえた。この予定で話し合おうと思っている。いい案が出るといいけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます