とんでもないまちがいで魔王になったけど!?

みたらしカレジ

第1話 異世界への入り方

 4月上旬、それは日本人が新生活に入る月である。

俺(マサル)は午後三時に起床している。


「ふぁあぁあ……寝すぎて頭いったぁ……って、うわっ! もうこんな時間かよぉ」


 小・中・高では、元気で明るいクラスの人気者だった過去の日々。

そして、高校卒業目前の将来のビジョンをしっかりと見据え、皆が日々研鑽ひびけんさんを行っている間も、俺は変わらずにいた。切磋琢磨せっさたくまの邪魔でしかない俺を、次第に周囲はうとましく思って見ていた。

そのことに気付かせてくれたのは、高校入学時から付き合っていた彼女だった。


「将来をきちんと考えていない人とは、これ以上付き合えないの……さよなら。」


 学生ながら心に重く響いたあの言葉。

それでも俺は、変わらずにただ過ぎ去る日々を暮らしていた。


 その結果、高校卒業前までに大学にも専門学校にも就職にもついていない。

なんならバイトも就職先も探さないまま気づけば現在19歳。4月までの約1か月間を部屋で惰眠をむさぼりつつ、両親のスネにかじりついている。

共働きで多忙の両親に、これ以上の負担をいれまいと、家事だけは率先してやっている毎日である。


 各部屋の掃除・洗濯物の回収・洗濯物の畳みを終え、最後に風呂場の掃除へ。

この家で唯一自慢できる大きな浴槽、日々の家事の終わりはこの浴槽と決めている。

他の掃除と違い、なぜか達成感が一番得られる。


 「うっしゃー、やりますかねー!」


 Tシャツ短パン姿だが、腕まくりと裾上げの仕草をして浴槽へ赴き、室内に置いてあるお風呂洗剤とスポンジを手に取り、洗剤ボトルのスプレートリガーを引く。


 ——シャ!


 「あれっ? 泡になってないじゃん。」


 射出口を見ると泡と液状の切り替えの蓋が外れて浴槽の下に落ちている。


 「よっっ!」 

 

 浴槽の中に片足を入れ、スプレーボトルの蓋を屈んで取ろうとした瞬間だった。


―—ズルンッ!


 はじめに噴射した洗剤液が浴槽のそこに溜まっていた。そこに、ほぼ全体重を乗せていた片足が文字通り足元をすくわれる。体勢を整える間もなく、浴槽の縁めがけて顔面から落ちていた。


 「うわあぶっ!?」

 ——ボキュッ!!


今までに聞いたことのない大きな音と共に真っ暗になった……。

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