第35話 エスラティオの女王

 アンナ達一行は、数日間かけて、エスラティオ王国を横断していた。

 そして、いよいよエスラティオ王国、王都へと辿りつこうとしていた。


「ねえ、カルーナ。エスラティオ王国の王都の名前はなんていうの?」

「えっと……ちょっと待って」

「あれ? 地図に書いてあるんじゃないの?」

「この地図、王都と村の場所を記号で表してるだけなんだ。


 馬車の御者席の何気ない会話の流れで聞かれたカルーナだったが、流石に外国の王都の名前まではわかっていなかった。

 カルーナが、頭を悩ませていると、後ろからティリアの声が聞こえてきた。


「王都は、セリトニアという名前ですよ」

「へえー、そうなんだ。ティリア、よく知ってるね」

「一応は、私の出身国なので、覚えておこうと思っていたんです」

「なるほど、それもそうか」

「セリトニア、ちゃんと覚えておかないとね、お姉ちゃん」


 そんな会話をしていると、その王都が見えてきた。


「お、あれがセリトニアだね」

「うん、いよいよ到着ってところだね」

「なんだか、ドキドキしてきます」

「よし、行こう」


 そう言って、三人が王都セリトニアへと入っていく。





 セリトニアに着いた一行は、早速王城に向かった。

 今回は、ウィンダルス王国の時のように門番に止められることなく、王城の中に入れてもらえた。それどころか、


「勇者様、お待ちしておりました」

と言われて頭を下げられてしまった。そして三人は、兵士に案内されているのだった。

 アンナとしては、多少気恥ずかしかったが、悪い気はしなかった。だが、浮かれてはいられない。これから、謁見があり、恐らくは鎧魔団との戦いが始まるのだ。気を引き締めていかなければならない。


「そういえばティリア、ごめんね、いきなり王城に行っちゃって。自分のことを調べる時間がなくなっちゃって……」

「それなら問題ないですよ。こっちの方が優先すべきことですから」


 アンナの質問に、ティリアはそう言って答えてくれた。


「それに、私の目的は、人々の助けになることでもあります。ですから、ここに来ることも私の目的です」

「そっか……」


 ティリアはここに来るまでも、傷ついた人々がいれば、その人を助け回っていた。彼女の献身的なその姿勢に、アンナは尊敬の念すら覚えるのだった。

 アンナとティリアが話している内に、どうやら目的地に着いたようだ。


「こちらが、玉座の間です」


 案内してくれた兵士は、そう言って扉の前で待機した。


「あ、ありがとうございます」


 アンナは扉に手をかけて、ゆっくりと開け放ち、中に入った。一度、自国の王と会っているが、やはり国を治める者と会うの緊張するものだと、アンナは実感していた。

 女王が来るまでは、心を落ち着かせる時だ。ゆっくりと深呼吸しながら、アンナは待つことにした。

 しばらくそうしていると、足音が聞こえてきた。そして、一人の人物が現れた。

 その人物は、カルーナの言っていた通り、かなり若い人物だった。しかし、その気品や優雅さ、さらには美しさまでもが、彼女が王であることを表していた。

 女王は、ゆっくりと玉座に座る。それに合わせて、アンナ達三人も、ゆっくりと跪いた。

その様子を見つめながら、女王は口を開いた。


「そなた達が勇者一行か……」

「は、はい。ゆ、勇者アンナです」

「その妹のカルーナと申します」

「ティリアです」

「なるほど、楽にして良いぞ」


 女王にそう言われたので、三人は立ち上がる。


「さて、名乗らせたのだから、こちらが名乗らないのは失礼か。妾の名前は、レミレア・エスラティオ、この国の女王だ」

「は、はい……」

「ふふ、勇者よ。そう緊張する必要はないぞ。妾は、そなた達を歓迎しているのだからな」


 アンナが緊張していると、レミレアは笑いながら、そう言い放った。その仕草一つ一つに気品さがあり、気高さが現れていた。


「本来なら宴の一つでも振る舞いたいところだが、我が国も今は窮地。済まぬが、そなた達の力を貸してもらいたい」

「はい、もちろんです。そのために、私達はここに来たのですから」

「そう言ってもらえると助かるな。では、早速現状の説明を始めようか」

「はい、お願いします」

「現在、我が国は魔王軍鎧魔団の侵攻を受けておる。奴らは、かつて城として使われていた場所を占拠し、鎧魔城と呼び拠点にして使っているようだ。現状、我らは防戦一方といったところか……」


 レミレアは、苦い顔でそう言った。やはり、どの国も魔王軍との戦いに苦しんでいるようだ。


「鎧魔団を率いているのは、鎧魔将ツヴァイという男だ。恐らくは、リビングアーマーであるとされている。槍を使う厄介な奴でな……何度か前線に出てきているようだが、かなりの達人らしい」

「鎧魔将……」


 魔将という名前を聞いて、アンナの体が震えだす。それは、魔王軍幹部の証、アンナにとっては今まで戦ってきた強敵達のことを表している。

 剛魔将デルゴラドとの戦いは、ぎりぎりで勝利した。竜魔将ガルスとの戦いは中断されたが、劣勢であったといえる。次の魔将がどれ程の実力かわからないが、また苦しい戦いになることが予測できた。


「そこで、剛魔将を倒したそなた達に、奴を倒して欲しいのだ」

「つまり、私達の役目は、その鎧魔城にいるツヴァイへの攻撃ということですか?」

「そういうことになるな。しかし、そのためには準備が必要なのだ。数日後、改めて通達しよう。その間、そなたらも戦いの準備をしてもらいたい」

「はい、わかりました」

「部屋は一つでいいと、ウィンダルス王から通達があったが、それで構わぬか?」

「はい、ありがとうございます。それで大丈夫です」

「では、案内させよう」


 そうして三人は、部屋に案内されるのだった。





 部屋に案内された三人は、これからのことを相談することにした。

 恐らく、数日後には、鎧魔団との戦いが始まるだろう。それに向けて、何をするかなどを事前に決めるべきだと思ったからだ。


「とりあえず、私は勇者の力について調べたいと思うんだ」

「うん、お姉ちゃんはそれがいいね」


 アンナのやるべきことは、前から決まっていたので、すぐに決まった。


「ティリアは、どうするの?」

「……私は」


 アンナの質問で、ティリアは一瞬沈黙した。アンナはてっきり、自分のルーツを探すのだと思っていたので、この反応は意外であった。

 アンナが疑問に思っていると、ティリアは、意を決したような表情でゆっくりと口を開き始めた。


「私は、鎧魔団の侵攻で、けがを負った人達の治療をしたいと思っています」

「治療を?」

「はい、兵士の方に聞いたのですが、現在、傷ついた兵士の方々がたくさんいて、治療が追い付いてないそうなんです。その方々のために、私の力を使いたいんです」

「ティリア……」


 ティリアは、自分よりも周りの人々のことを気にしていたようだ。


「うん、ティリアがそうしたいなら、そうするべきだよ」

「はい、そうしようと思います」

「よし、後はカルーナだね」


 ティリアのやることが決まったので、アンナはカルーナに話を振った。カルーナもわかっていたのか、すぐに口を開いた。


「私は、色々と情報を集めてみる。鎧魔団のことも、ティリアさんのことも聞いてみるね」

「カルーナ、よろしく頼むよ」

「カルーナさん、ありがとうございます」


 カルーナは、情報収集を行うことにしたようだ。そして、ティリアの出自のことも調べるらしかった。


「よし、やることは決まったね。まあ、今日は遅いから、明日からになるけど」

「うん!」

「はい!」


 アンナがまとめたので、三人は休息をとることにした。

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