第9話 涙を流しても
「お姉ちゃん!」
戦いが終わった後、カルーナはアンナの元に駆け寄っていた。
アンナが、剣を鞘を収めたのに、その場を動かなかったからだ。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
カルーナが聞くと、アンナはゆっくりと歩み、村人達の亡骸の傍で屈んだ。
「この人達は……今日まで、普通に暮らしていたんだよね」
「お姉ちゃん、それは……」
「こんな風に、普通に暮らしていただけなのに、どうして……」
「お姉ちゃん……」
「守りたかった……もっと早く、ここにきていれば」
アンナは、涙を流しながら、そう言った。あまりにも理不尽な侵攻に、悲しみを覚えずにいられなかった。
「お姉ちゃん、自分を責めないで。お姉ちゃんは、この人達の仇をとったんだよ」
「うん……」
アンナは、自分達を案内してくれた兵士を見つめた。
彼は、きっとこの人達を守るために戦い、散ったのだろう。
その勇敢な戦士に、アンナは敬意を覚えた。
◇
しばらく、そうしていると、村の人々が数名、アンナ達の元に駆けつけていた。
どうやら、騒ぎが収まったのに気づき、様子を見に来たらしい。
村人達は、周りの様子を見て、状況を理解したようだった。
「あんた達が、やってくれたのか?」
村人の一人が、アンナ達にそう話しかけてきた。
アンナが話せそうになかったため、代わりにカルーナが受け答えした。
「はい、そうです。といっても、私は何もしてないんですけど」
「そうだったのか。感謝するよ、ありがとう。あんた達がいなければ、この村は終わりだった」
「そうだぜ、ありがとうよ」
「ああ、本当によかったぜ」
村人達は、口々に感謝の言葉を口にした。
その言葉に、アンナは少しだけ救われた。
◇
現場の整理は、村人達が担当してくれることになった。
そのため、アンナとカルーナは、宿の部屋に戻っていた。
アンナは、疲労からベットに倒れた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん……それより、カルーナ、意見が欲しいんだ」
アンナは、寝転びながらも、そう言った。カルーナは、なんのことかわからず、首を傾げた。
「どういうこと?」
「明日からのことさ……」
「……ああ、なるほど」
カルーナは、ここで理解した。自分達をここまで送ってくれていた兵士は、亡くなってしまった。
つまり、ここからは自分達で考えながら、行動していかなければならないのだ。
「王都まで、どれくらいかかるかわかる?」
「ちょっと待って、地図を見てみる」
カルーナは、地図を取り出し、自分たちの家、ケシルの村、王都ミルストスの場所を確認した。
「うん、今日と同じペースで行ければ、明日の夕方か夜には着けると思うよ」
「なら、そうしよう。早ければ、早いほどいいはずだ」
アンナの言葉に、カルーナは頷いた。
「さて、それじゃあ、今日は、お風呂に入って寝ようか? 一緒に入るんだっけ?」
「あ、うんう。今日は、一人で入って、ゆっくりして。私達以外にお客さんはいないみたいだから、貸し切りだよ」
「そっか、それじゃあ、お言葉に甘えようかな……」
こうして、アンナ達は、一人ずつお風呂に入り、一日の疲れを癒すのだった。
◇
カルーナがお風呂からあがり、部屋に戻ると、アンナがベットの上で寝転がっていた。
まだ寝てはいないようだったので、話しかけてみることにした。
「お姉ちゃん、あがったよ」
「ああ、カルーナ」
「眠れそう?」
「ちょっと、無理かも……」
今日も、色々あったためか、アンナは目が冴えてしまっているようだった。
しかし、疲労は大きいはずなので、無理にでも休ませるべきだと、カルーナは考えた。
「ちゃんと休まないと、だめだよ」
「わかっているけど、眠れないし……」
「うん、だから、眠れるまで、お話でもしよっか」
「わっ!」
そう言って、カルーナは、アンナと同じベットに寝転んだ。
アンナは、多少驚いたものの、すぐに理解し、カルーナと身を寄せ合った。
「カルーナ、ありがとう。カルーナがいなかったら、私、駄目になってたよ」
「お姉ちゃん……でも、私、今日、何もできなかったよ」
「いや、カルーナはそばにいてくれるだけで、私に力をくれる。だから、それでいいんだよ」
「うん……」
そう言われたカルーナだったが、内心は穏やかではなかった。
今回の出来事で、アンナだけが戦い、カルーナは何もできなかった。
旅を続けていく上で、このままの自分ではいけないと、強く思うのだった。
しかし、今は、アンナを眠らせることが先決なため、暗い話はしないようにしようと、考えを改めた。
「そう言ってもらえると、嬉しいな」
「ふふ、こうやって、カルーナが隣にいてくれると、なんだか、安心してきたな」
「お姉ちゃん?」
カルーナが傍にいて、安心できたことで、アンナには強烈な眠気が襲ってきていた。
それがわかったカルーナは、アンナにゆっくりと囁きかけた。
「大丈夫、お休み」
「うん、お休み」
すると、すぐに、アンナの寝息が聞こえてきた。やはり、今日一日の疲れは、相当なものだったのだろう。
アンナが眠りについたのを確認できると、カルーナも眠たくなってきた。
そのまま、二人は同じベットで眠るのだった。
◇
次の朝、二人は、馬と馬車の準備をしていた。
「マルカブ、シェアト、昨日は休めた?」
「ブルル!」
「ヒヒーン!」
アンナが馬達に聞くと、マルカブは鼻を鳴らし、シェアトは大きく鳴いた。
アンナは、二頭の馬を撫でながら、笑った。
「休めたって、言っているのかな? まあ、元気そうでよかったよ」
「お姉ちゃん? ちょっと待ってね。私も……」
カルーナも、アンナと同じように、馬に近寄ってみる。
始めは、怖かったが、勇気を出して、近づくと、馬は大人しくしてくれた。
カルーナは、シェアトに手を伸ばすと、ゆっくりと撫でてみた。シェアトは、抵抗することもなく、受け入れており、カルーナは安心できた。
マルカブにも同じようにしたが、こちらもカルーナを認めてくれているようだ。
「よ、よかったー」
「ふふ、カルーナ。それじゃあ、そろそろ出発しようか」
アンナとカルーナは、二人で、御者席に乗り込んだ。
アンナは、馬の制御、カルーナは、道の案内をすることを事前に決めていた。
「じゃあ、王都に向けて、出発、だね」
「うん、行くよ」
アンナは、手綱を握り、馬に合図を出す。すると、馬達が走り出した。
次の目的地は、王都ミルストス。
◇
魔獣の森。ウィンダルス王国の王都ミルストスから、少し離れた場所にある、大きな森林地帯である。
人間が寄り付かないこの森の奥地を、野営地としている部隊があった。
剛魔団、魔王軍の一種であり、現在、ウィンダルス王国を侵攻している者達である。
オーガであり、魔術師であるボゼーズは、自身の魔法によって、ある一つの情報を得ていた。
「ほほう、これは……」
最近、一部の者が、隊列を乱し、一団から離れていた。
ボゼーズは、常に魔法によって、いくつかの兵士を監視している。
今回離れていた者の一人に、その魔法がかかっていたらしく、その者が見たものを、ボゼーズは確認したのだ。
「デルゴラド様、少々、よろしいでしょうか?」
ボゼーズは、この団の団長に話しかけた。
そこには、屈強な体をしたオーガが立っていた。
剛魔将デルゴラド、彼こそが魔王軍幹部にして、剛魔団長である、最強のオーガだ。
デルゴラドは、ゆっくりとボゼーズを見ながら、言葉を放った。
「なんの用だ?」
「面白いものを見つけました」
「何?」
ボゼーズが、手を掲げると、そこに兵士の見たものが映し出された。
「離れていたものどもか。こんなものを見ても、面白いとは思わんぞ」
「いえ、問題は、ここから先でございます」
しばらくして、そこには、赤髪で、剣を持った少女が現れていた。
それを見て、デルゴラドは、目を見開いた。
「これは、まさか……」
「ええ、勇者の剣、聖剣に間違いないでしょう」
「なるほど、これは面白い……」
デルゴラドは、その口を歪めながら、笑うのだった。
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