赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~
木山楽斗
序章 目覚めし力
第1話 赤髪のアンナ
「お母さん……」
部屋の片隅で、アンナは泣き崩れていた。
「どうしたの?」
そんなアンナに、自分よりも年下の小さな女の子が話しかけてきた。
「……お母さんが、死んじゃったの」
「死んじゃう?」
「……いなくなったってこと」
それを聞いて、小さな女の子は、アンナの隣に座った。
「な、何?」
「だったら、私が一緒にいてあげるよ。それなら、寂しくないでしょ」
女の子は、無邪気に笑って、そう言った。
その言葉は、今のアンナにとって、嬉しいものだった。
「一緒にいてくれる?」
「うん、ずっと一緒だよ」
「ありがとう、優しいね」
「うん、よしよし」
女の子のその言葉で、アンナはいくらか救われた気がした。
◇
世の中は、理不尽に溢れていると、アンナは思っていた。
母が亡くなってから、アンナは叔母であるソテアの元で暮らしていた。
ソテアは、厳しい人物ではあるが、言っていること自体は正しいので、アンナは反論できないでいた。
百歩譲って、そこまではアンナも我慢できた。
だが、一つだけ理解できないことがあった。
「どうして、町に出たらだめなの?」
「アンナ、あんたみたいなのは、町に行っても恥をかくだけなのさ」
「叔母さん、いっつも一般常識だって、色々教えてくるじゃない。それで何で、恥をかくの?」
「うるさいわね。だめなものはだめなんだよ」
「うーん」
この家は、町から遠く離れた場所にあり、周りは森に囲まれていた。
アンナは今年で、十六歳になるのだが、叔母は、アンナを町に出かけさせてくれないのだ。
アンナが町に行けるのは、叔母が同伴している時だけだった。
「まったく、どういうつもりなんだろ……」
自室に戻ったアンナは、独り言を呟いていた。
アンナは、本棚から一冊の本を取り出し、読み始めた。
外に出れないアンナにとって、叔父のグラインが買ってきてくれる本は、唯一といってもいい娯楽であった。
「人間と魔族の戦争か……」
本には、世界の歴史が書いてあった。
長い年月、人間と魔族は争ってきた。その原因が何かはわからない。その戦いは、今でも続いているらしい。
「そんなの実感ないんだよね」
アンナの暮らしているこの家は、人里離れていることもあって、魔族との戦いを認識することはなかった。
「魔族って、どんなの何だろう?」
魔族には、悪魔に、ハーピィ、リザードマンと色々な種族があるらしい。アンナは、一人も見たことがないため、気になっていた。
アンナが物思いにふけっていると、部屋の戸が叩かれる音がした。
「叔母さんかな?」
そう思いながら、戸を開けたが、答えは違った。
「ふん、相変わらずみたいね」
「はあ、カルーナか、何の用?」
戸を叩いたのは、叔母さんの娘で、アンナの従妹にあたる、カルーナであった。
カルーナは、小さい頃は、アンナに良く懐き、いつも後ろをついてきていたのだが、最近は、アンナに冷たく、嫌味のようなことばかり言ってきていた。
そのため、その長い金髪を見るだけで、アンナは嫌気が差すのだった。
「私、今日、町に行くのよ」
「……また、私に、自慢でもしに来たの?」
カルーナの言葉に、アンナは機嫌が悪くなった。
カルーナは、いつも町に行く時に、アンナに話に来るのだ。アンナが町に行ってはならないことを、カルーナはもちろん知っているため、鬱陶しいことこの上なかった。
「ふふ……」
「もういいよ、聞き飽きたし、勝手に行ったらいいじゃんか」
「違うよ、今日は」
カルーナは、不敵に笑い、アンナに語りかけてきた。
「あんたも一緒に来ない?」
「え?」
「今日は、馬車が来るんだけど、それに一緒に乗らないかって、言ってるの」
「何それ? どういう風の吹きまわしなのさ?」
「ふん、町に出れないあんたが、哀れでしかたなかったから、恵んであげてるのよ。それに、最近お母さんに嫌なこと言われたから、その復讐も兼ねてね」
「ふうん、まあ、町に出れるのは悪くないな……」
カルーナの態度にはイラついたが、アンナは誘いに乗ることにした。
カルーナと同じ馬車の中というのは、嫌だったが、それ以外はデメリットがないように感じた。
「じゃあ、さっさと行きましょ。お母さんに見つかると厄介だもの」
「そうだね。そこだけは、完全に同意できるや」
二人は、ソテアに見つからないように、静かに外に出るのだった。
◇
「おや、そちらの赤髪のお嬢さんは?」
「あ、えっと、アンナです」
「私の姉のような何かです」
何かとは、なんだとアンナは思ったが、カルーナの態度はいつもこんななので、一々言わないことにしていた。
「はあ、まあ別に一人も二人も変わらないからいいけどさ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます。御者さん」
「じゃあ、乗ってくれよ」
御者に促され、二人は、馬車の中に入った。
隣に座るのもなんだったので、二人は、向かい合って座ることになった。
「ふふ、町に出られるのが、そんなに嬉しいの?」
「えっ? 何が?」
「顔がとても嬉しそうで、可笑しくってしょうがないもの」
「悪かったね。一々、うっさいなあ」
馬車に揺られながら、ずっとこの嫌味を聞かなければならないのは、アンナにとって苦痛だった。
なので、一般的な質問で、なんとか誤魔化そうと、アンナは思ったのだった。
「そういえば、町に何しに行くの?」
「うん? ああ、別に、買い物とかそういうのだけど」
質問をしたアンナにとって、その答えはイラつくものだった。
自分が気軽に行けない場所へ、このいけ好かない金髪は、理由もなく行ける。そう思うと、無性に腹が立ってきた。
だが、同時に悲しくもなってきた。自分が本当に惨めに思えた。
「そんなこと聞いて、何がしたいか知らないけど、町に出たら、別行動だからね」
「こっちだってそのつもりさ」
「……っ」
カルーナは、苦虫を噛み潰したような表情をした。カルーナは、時々、アンナの言葉で顔を歪めるのだが、その意図はアンナにはよくわからなかった。
「まあ、いいけど」
それから、カルーナは、話しかけてこなかった。アンナとしては、それでよかったが、馬車の中の空気は嫌な感じだった。
◇
「うわあ、ここが町の中心部か……」
「みっともないわね、田舎者じゃないんだから」
「いいだろ、別に、田舎者みたいなもんなんだから」
「まあ、それもそうね」
珍しく、カルーナと意見が合ったところで、アンナは別行動しようと思った。しかし、カルーナからは意外な一言が飛び出した。
「それじゃあ、行くわよ」
「へ? 別行動するんじゃなかったの?」
「連れて来てやったんだから、荷物持ちくらいしなさいよ」
「はあ?」
アンナは、カルーナの言動にイラついていた。結局、アンナを自由にするつもりはなかったらしい。これも嫌がらせの一種なのだろうか。
「これは、善意で言ってあげてるのよ。あんた一人じゃ、迷子になって帰れないのが落ちだわ」
「うっ……」
カルーナの言葉は、最もだったため、アンナは言い返せなくなった。
「今日は、私の買い物を見て、覚えて帰って、また来た時に、自由に行動すればいいじゃない」
「わかったよ。それでいい」
アンナにとっては、そのまたがいつになるのかわからないが、今は従うしかなかった。
「それで、まずどこに行くのさ?」
「服屋さんからね。新しい服が欲しいもの」
「服ね。そんなの気にしたことないや」
アンナにとって、服とは動きやすければなんでもいいくらいのものだった。
「年頃の娘のくせに、オシャレに無頓着とは、貧しい人生ね」
また、余計なことを言われたため、アンナはイラついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます