第34話 走ってきた君。

考え事にふけった後、ふと外を見ると松川くんの姿があった。目が合うと何もなかったかのように歩き出した。俺は反射的に呼び止めてしまった。

「松川くん!」

「…はい」

「お茶でも飲んでいくかい…?」

松川くんと話す理由作りにお茶を進めると彼はまた小さく“はい”と言って交番に入ってきた。


彼は走りまわっていたのだろうか、少し息を切らしていた。お茶を飲んで、黙っている。

「松川くん、突然なんだけどね。悠人くんのことは知らないんだよね?」

「…知らない」

「そうか…。実は松川くんのお父さんが悠人くんを誘拐したと自首しにきたんだ」

松川くんはとても驚いた顔で俺を見た。

「それで、悠人は。悠人はどこに行ったんだ」

やっぱり、悠人くんを誘拐したのは松川くん、君なのかい?

「悠人って…やっぱり君は悠人くんを知っていたんだね」

「あ…」

彼はそれから少しだけ黙っていた。何か言いたげで俺はそれを待つべきだと感じ、2人で無言の時間を過ごした。冷静さを取り戻してきた松川くんは小さな声で言った。

「犯人は…俺です」

あぁ、やはり…。高校生の君からそんな言葉を聞くことになりとは。

「でも、誘拐したつもりはない」

…悠人くんも遊びに行ってたと話していたもんな…。どういうことだ?

「君にとっては誘拐じゃなかったということかい?」

「あぁ、俺は悠人を守りたかった」


…守りたかった? いったい松川くんは何を思っているのだろうか。

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