第17話 はるくんと先生
「突然すみません。斎藤のことで相談があってきました」
訪ねてきたのは松川だった。松川は斎藤の嫉妬を生んだ鈴木の仲良し“はるくん”だ。嫉妬を生んだと言ってもこいつは何も悪くないがな。むしろ彼は殴ったことを反省しているし、何よりいじめを止めた、いいやつだと思う。
「どうした、今時間あるから。話聞くぞ」
松川を別室に連れて行って、人に聞かれないよう相談を受けることにした。松川は斎藤に謝った後、鈴木に謝ってほしいと告げたらしい。私の謝ってほしいという願いは他の人を通じて届いたようだ。しかし、斎藤はそれを断ったという。今日休んでいることを自分のせいだと思った松川は、そのことを私に相談しにきたらしい。
「俺はどうしたらよかったんでしょうか。そして俺にできることは何でしょうか」
難しい質問だと悩み、少し黙ってから私は話し始めた。
「斎藤に謝ってほしいと思った気持ちは間違ってはいない。きっと伝え方の問題もあったと思う。松川にできることを、私が明確に見つけるのは難しい。それに自分の人生は自分で決めてほしいとも思う。ただ、焦るな。斎藤も松川や鈴木、他のクラスメートのように悩んで、自分にできることや自分のすべきことを探していると思う。だから、焦らないで斎藤を待ってやってほしい。ただ斎藤が打ち解ける手助けはしてやってほしい。難しいことを言ってすまないが、相手の気持ちを考えた上で慎重に松川が思うことをすればいいんじゃないか」
人任せのような言い方になってしまった。ただ生徒の間で解決できるのならとてもいいことだと思うからこんなことを伝えたくなったんだろう。
「なるほど…。鈴木は斎藤の気持ちめっちゃ考えてたし、俺ももっとあいつのこと思って行動してみる! でも先生、人生って難しいんだな〜」
高校生が人生を語り出した!?
「なんで人生って正解はないくせに間違いはあるんだよ」
めっちゃいいこと言ってるし…。めっちゃ難しい質問だな…。 でも…。
「松川、国語の答案って模範解答はあるけど、それだけが正解じゃないよな? 本筋があっていれば自分なりの答えが正解だったりするだろ? まぁ国語の教師からすると答えはあるんだけどな。一般論として、国語にはたくさん答えがある。それと同じで、人生も人それぞれの価値観で見つけ出せる答えがたくさんあるはずだ。相手を傷つけないとか、法律を守るとか、何を伝えるべきなのかとか…、本筋を間違えなければ人生にだって答えはあるんだぞ。あと、間違いはないに越したことはないが、経験でもある。間違いから学んで成長することもある。松川なりの正解を見つけてみろ」
「すげぇ、めっちゃいい話聞いたかも。でも先生、俺が国語の成績悪いからってちょっとバカにして話してるでしょ!」
「いや、松川に伝えたいと思ったことを言っただけだ」
かっこいいことを言ったつもりだったが、ちょっと曲解された、かな…?
「まぁ、何となく頑張れそうって思えたからさんきゅ、先生!」
先生にさんきゅ…。
「斎藤のことは私も考えてみる。また何かあったら相談に来なさい。国語よりも難しい、人生の問題解けるといいな、応援してるぞ」
「先生。ありがと、頑張るわ! あ、最後のはダサかったよ〜、失礼しまーす」
…本当に失礼なやつだ。
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