第37話 (少々R15)
抱き合っていない時、私たちは話をした。
ライ様に聞かれた事は、知っている限り全て、正直に答えた。
今更隠しても・・という想いは勿論あったし、ライ様が知りたい事で、私が知っている事ならば、ライ様にも知ってほしいと思ったから。
それに、私は明日、ライ様に殺される運命にあるのだから、予知夢を見たくないと思う以前に、もう見る事がないのだと、今頃思い至って。
両肩に乗っていた重しが取れたような爽快感を味わっていた。
「おまえはドレンテルト王と親しかったのか」
「いいえ。3週間程前に王宮へ連れて行かれるまで、私は王宮内へ入った事もなかったですし、直々に会って話をしたことも、勿論ありませんでした。因みに、ジョセフィーヌ姫とも親交はありませんでした。私は今は亡き王妃様との子ではなく、しかも私の
「そうか。やはりそうだろうだとは思っていたが」
どことなくホッとしている声音のライ様に抱きつくような恰好―――勿論私たち二人とも、布団の下は全裸姿―――で、私はライ様を仰ぎ見ながら、「何がですか?」と聞いた。
「おまえとドレンテルト王は全然似ていない。顔立ちと言った事ではなく―――顔立ちも似ているとは思わなかったが―――思想や志、そういった内面的なものが、おまえとドレンテルト王は全然違う。おまえが純粋で真っ直ぐな心を持っているのも育った環境の賜物だろう。察するに、おまえの亡き母上と、おまえの言う育ての父親・フィリップ翁も、そういう人物なのだろうな」
「はい。母が亡くなった時、私は5歳でした。リアージュ公爵の館で8歳と言ったのは、ドレンテルト王の妻だった、亡きアナベラ王妃様の事です。母がどうやって亡くなったのか、その時の記憶は曖昧で・・・。ただ覚えているのは、母様が突然いなくなってしまった事だけ。母様の存在は、いなくなってからも、時折何となく感じてはいたけれど・・・。それから、母の知り合いだというフィリップが来て、私を引き取ってくれて。フィリップが住んでいた山奥にある小屋で、二人一緒に暮らし始めました。フィリップは私に、たくさんの愛情を私に与えてくれました。おかげで私は、寂しさを感じる事は、あまりありませんでした」
「そうか。そのフィリップ翁は病気だと言ったな」
「ええ・・・。フィリップはここ数年、ずっと“ワシは59歳じゃ!”と言っているけれど、本当は70近い年齢だと思うので。体の融通が利かなくなってきているのでしょうね。体力も落ちているはずですし。なので、事業の運営は私とフィリップの二人でしていますが、花や茶葉等の収穫作業に行く事は控えてもらっています」
「ほぅ。ではおまえは本当に植物の卸販売の事業を運営しているのか」
「はい。元は母が始めた事業だったので、私も幼い頃から収穫作業は手伝っていました。勿論、その年齢でできる限りの事を、という意味で。そこで、一緒に収穫をする人たちからも可愛がってもらって。母は私に植物の名前を教えながら、“心の耳を傾けて、彼らが何を言っているのか、よく聴きなさい。そして愛情を込めて、その願いを叶えてあげるのよ”と、よく言っていました」と私が言うと、ライオネル様はクスクス笑った。
「私、おかしな事を言いましたか?」
「いや・・・偶然の一致に、つい嬉しくて笑いが出ただけだ。おまえの母上がおまえに言っていた事は、俺の母上もよく言っていた事だったからな」
「まあ!そうでしたか」
・・・見えない所で色々な繋がりがある。
やはり私は、ライ様と出会うべくして出会ったのだと確信した。
「そういうわけで、本来私は一庶民であり、ラワーレ王国の
「確かに、おまえはワルツが下手だったな」
「そっ、それは言わないでくださいっ!必死に特訓したけれど、どうしてもああいう、優雅な動きをするのは苦手で・・・」
「だが、おまえには気品がある。そう俺は言ったと思うが。覚えてないのか?メリッサ」
「そ・・・ぅでした、っけ」
「それにおまえには殺気が無い。最初から・・・今も。だから案ずるな。少なくとも俺は、おまえに殺される事など、まずあり得ぬ」
「・・・ええ。これからは、私があなたを、御護ります。あなたはいつも・・・民の事を気にかけ、護っていらっしゃるから。だから私が・・・あなたを、母様のように、聖なるヘメル山から・・・あなたの事を、ずっと・・・いつまでも、あなたと、それから、後に生まれ来るであろう、あなたの子どもたちの事も、あなたが・・・迎える、未来の花嫁、様も・・・だからライ、様・・安心して、くださ・・・ぃ」
これだけは言っておきたかったという想いは、眠り落ちる前に、どうにか言えた。
そのまま私は、ライ様の逞しい体から発せられる温もりを存分に感じながら、そしてライ様と一つに繋がったまま、私はライ様に抱きついて、眠りについた。
「・・・サ。メリッサ。ディア」
「・・・ん・・・」
ライ様が唇を中心に、顔中キスをしてくれたおかげで、私は目覚め始めた。
「もうすぐ出発の時間だ」
「あ・・・そぅ・・・」
「あまり寝かせてやれなくて悪かったな」
「いいです。それより、最後にもう一度だけ・・・」
「そのつもりだ」と言ったライ様の顔は、ニヤリとしていた。
・・・ラワーレの村人たちは、恐らくライ様に殺されることもないどころか、ライ様はきっと、ドレンテルト王の企みを阻止し、村の人たちを救ってくれるだろう・・・。
加えて一晩、ライ様から存分に愛された思い出があれば、私はもう、何も思い残す事無く・・・死ねる。
その後、ライ様と私は、ラワーレに着くまで会話をしなかった。
恐らく今のライ様は、一国を統治する王として、自分を殺して領土を奪おうと目論んでいるドレンテルト王とどう向き合うか、考えているのかもしれない。
もしくは私をどのように処刑するのかを考えているのかもしれない。
それでもジュピターに乗っている私は、すぐ後ろにいるライ様から盾のように護られている。
そう感じるだけで、私は十分幸せだった。
日の出前に出発した私たち一行は、ジュピターたちが飛ばしたおかげで、その日の夕方、日が暮れる前にラワーレ王国に到着した。
国境兵たちは、「ジョセフィーヌ姫」の嫁ぎ先で、「姫の夫」であるロドムーンの国王が来ると報告を受けていなかったからか(それは勿論、こちら側がわざとした事だ)、私たちは、控えめに言っても、かなり”慌てふためいた”対応を受けた。
それでも私たちはすんなりと、ラワーレ国内へ入国する事ができた。
「ディア」
「はい」
「王宮への道は分かるか?」
「はい。ここから西の方角へ・・・そうですね、馬だと20分弱くらいで着くはずです」
「そうか。おまえがフィリップ翁と住んでいた区域は」
「あそこは王宮の方角と真逆ですが」
「そうか・・・。日も暮れ始めている事だ、後でも良かろう」
「あっ!ライ・・・オネル様」
「どうした、ディア」
「フィリップは人質として王宮内にいるはずです。もし、国境兵から知らせを受けたドレンテルト王があなたがここに来たことを知ったら・・・私たちが王宮に到着する前に、フィリップを・・・」
ライ様は生きて、ここを「訪問」しに来た上、碧眼とプラチナブロンドの髪を持つ女、つまり私も一緒だと分かれば、任務が失敗した事は明らかで。
そうなると、ドレンテルト王がどう出るかも明らかで・・・。
「・・・あり得ぬ事ではないな。町の様子を観察するため、ゆっくり出向いてやろうと思ったが、急ぎながら見れば良いか。飛ばすぞ!メリッサ、道案内を頼む」
「はいっ!」
こうしてまた、馬たちがハイスピードで走ってくれたおかげで、私たち一行は、10分足らずで(私にとってはあっという間に感じた)、ラワーレの王宮に到着した。
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