第15話

「勘違いを正さず、魔物の王と思わせるひねくれた一面もあるけど、ライオネルは心優しく、情に熱い男だ。親友として僕が保証しますよ」

「あ・・そぅ」

「そう言えば。王妃様は、ご自分がベリア族だとご存知なかったようですね」

「え?ええ・・・」

「あの辺りにはベリア族があまりいないのかな」

「プラチナブロンドの髪に碧眼という組み合わせの人は、あまり・・・」


・・・いや。

私の他には亡くなった母様かあさま以外、見たことがない・・・。


「でっ、でもあのっ。私の父・・様は、ベリア族ではありませんよ?」


私の生みの父であるドレンテルト王は、金髪ブロンドに、青灰色の瞳をしている。

それらは染めたものでもないし、瞳の色を変えてもいないはずだから・・・。


「あぁなるほどー。では王妃様は、純粋なベリア族ではなく、御母様がベリア族だったんですね」

「え?あ・・・あぁ、そう、ですね、えぇ」


ラワーレのアナベラ王妃は、私の母同様、すでにお亡くなりになっているから・・・ここは肯定しても大丈夫だろう。


「ベリア族はとてもユニークな種族でしてね。たとえ2種かそれ以上の混血族であっても、がある場合は、ベリアの特徴的な、プラチナブロンドと碧眼という外見が現れるんですよ」

「能力?」

「はい。昔からベリアの者は、第6感―――いわゆる霊視力や霊聴力、感知力と呼ばれるものです―――が他族よりも優れていると言われています。ベルリ以外で生まれ育った者も例外ではありません。故にその能力を使って、シャーマンやヒーラー、そして僕のように占術師となってその地域に貢献している者は、ベリア族がほとんどです。因みに僕の父・アルタイルと母・オリヒメはヒーラーです。妹のヴィーナは感知力に優れ、且つ念話ができるんですよ」

「まぁ。そうなの」

「王妃様も何か能力をお持ちなのでは?」

「えっ?私が?ないですよ、ないないっ」


全力で否定しながら、心のどこかで引っかかるような、思い当たる節があるような、そんな気がしていたけれど、私はそれをおくびにも出さなかった。


「ふーん、そうですか・・・。ま、能力の開花は個人差がありますからね。僕は5歳から、ヴィーナは2歳から、その能力が表出ていたそうだし」

「まあ・・・っ!」

「そう言えば・・あの辺りには確か、アッセンという国がありましたが、20年程前の戦争でラワーレ領に代わったんですよね。学校で習いませんでしたか?」

「いぇ。あの、私・・実は、学校へ通ったことはなくて」

「王宮内の家庭教師から習ったんですね。なるほど」


いえ。

読み書きや計算は、母やフィリップから習ったんだけど・・・それを言ってしまうと私が偽ジョセフィーヌ姫だとバレてしまうから、エイリークにはあえて誤解をさせたままにしておいた。


「そのアッセンに、非常に優れたヒーラーがいたと母から聞いたことがあったなと、今ふと思い出しただけで。失礼ながら、あえて申し上げますが、ラワーレ王国はとても・・・な国故、この辺り一帯ではさほど内部事情が知られていません。ですから、まさかその国の姫様がベリア族の血を引く御方だとは、僕も王妃様にお会いするまで知らなくて」

「あ、そぅ、ですか・・・」


・・・ライオネル王は、エイリークを信頼しても良いと言った。

別の見方をすれば、ライオネル王はエイリークを信頼している、という事になり・・・。

さっき「頼んだぞ」と王が言ったのは、言い換えれば・・・。


「偽王妃(つまり私)のことをしかと探れ」という意味だったのでは?!


と、今頃気づいても遅い。

私たちはすでに、執務室と思われる部屋の前まで来ていたから。


「とにかく、僕は貴女様がライオネルの花嫁になってくれた事、そしてこのような形で貴女様にお会いできた事をとても嬉しく思っております。そして貴女様がロドムーンの王妃となってくれた事を、ライオネルはもちろん、国の民、皆が喜んでいるという事を、どうかお忘れなく」


端正な顔をニッコリさせてそう言ったエイリークは、私にグッと近づいた。


「もし何か―――ベリア族の事でもロドムーンの国事情でも―――分からない事、疑問に思う事があれば聞いてください。知っている範囲でお答えしますから。ライオネルから聞いたかもしれませんが、僕は王妃様の味方ですよ」


ちょ、ちょっと!

そんな、顔を近づけて囁かれると・・・私の心の内をしっかり見通されているような、私が偽者の姫だとバレているような・・あ。その事はすでに、ライオネル王がすでに話してるかもしれない・・・とにかく、私の・・悪事がすっかりバレているような、王同様、エイリークにも一歩先を越されているような、そんな気がしてならない!


良心の呵責にさいなまれた私は、胸をドキドキさせながらエイリークを仰ぎ見た。


「あ・・・あのっ。じゃあ一つ、聞いても良いかしら」

「どうぞ。王妃様」と言ったエイリークは、至って平静のままニッコリして、私から離れた。


「聞くと言うか、確認したいのだけれど・・さっきあなたは、一月ひとつきほど前に花嫁を探す占術をしたと言ったわよね?」

「はい。それが何か」

「ううんっ、それを確認したかっただけ!」

「そうですか。では中へ入りましょう」とエイリークは言うと、ノックして扉を開けた。












「・・・これ以上税を上げられると支払いができません!」

「では土地を手放し、農民に分け与えれば良い」

「そんな無茶苦茶な・・・!」

「無茶か?俺はそうは思わんが。マイ・クイーン」

「はっ!?・・い?」

「おまえはどう思う」

「えっ!?わた、し、ですか・・?」


何故私にふるんですか!

と抗議の意味を込めた顔で隣のライオネル王を仰ぎ見ると、王はフッと笑った。


「おまえはすでにロドムーンの民であり、この国の王妃でもある。統治者である俺に率直な意見を聞かせてほしい」

「いやでも・・」

「もちろん、おまえは王妃にだし、ロドムーンに嫁いで間もない故、この国の事情はあまり知らないだろう。今の討論を聞いた範囲でしか事情は分からぬはずだ。その上でおまえがどう思ったか、聞かせてほしい」

「う・・・で、は・・ウィンチェスター卿」

「はっ。王妃様」

「貴方は今、どれくらいの土地をお持ちなのでしょうか」

「そうですね・・1万㎡ほど」

「そこに、何でしたっけ。稲?というものを植えているんですよね?」

「そうです。稲は大体3年おきに不作になりやすいと言われています。ここ3年は豊作だった上、来年はヤバいと占術師にも言われまして、はい。ですので今税を上げられても、支払いが・・・」

「なるほど。16から21%に引き上げでしたね」

「作物に限ってな」

「それでも。確かに高い税率だと思います」

「その意見には賛成だ」

「でしたら何故」

「不作の時の蓄えだ。稲は民には欠かせない食物。故に不作で収穫が少なかった場合は、他国から買い取らねばならない。加えてウィンチェスター卿は今、税率を21%にしても払える懐事情。もちろん俺は、払える者からしかその分の税は払ってもらわない」

「それはつまり、豊かな方からは多くの税を払ってもらう、ということでしょうか」

「その通り。その税は、それほど税が払えない者たちの暮らしに役立つよう、使う事になる」

「まぁ・・・!」

「・・・何故そんなに驚く、マイ・クイーン」

「え?そ、それは・・」

「ラワーレの税率は何%だ?」

「一律12%です。そして・・・」

「そして、たとえ作物が豊作でも不作でも、ラワーレの食や物資の事情は常に同じく乏しい・・いや、中の下といったところか?」


言いよどんでいた私に代わって、ライオネル王はラワーレの国事情をピタリと言い当てた。

私は苦笑を浮かべながら、「そうですね」と言うしかなく・・・。


「別に物資に困っているわけでもないのですが、地域によって貧富の差が激しいと言いますか」

「それは、統治者であるドレンテルト王が、統治している国を均一に見ていないからだろう?」

「う・・」

「それに高い税を払っても、それが民に活かされることなく、王宮止まりになっている故に“高い”と感じるのではないか・・・というのは俺の憶測だからな、憶測だけで物申す事は止めておいたほうが良いが・・だからラワーレは内部事情を表に出さない、非常に・・国だと言えるのかもしれんな?マイ・クイーン」


・・・もしかしたら、といつも思っていた事を、ライオネル王からさらりと言われて。

私はただ驚いて、言葉もなくライオネル王を見ることしかできなかった。

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