スナックで働く。

Nょろニョロ

第1話 働く前の話。

2011年、震災の時私は無職だった。


物心ついた時から洋物映画や音楽が大好きで、当然大人になったら映画業界で働いてアカデミー賞を獲ると思っていた。


そのくらい将来設計もあいまいで、ただただ好きなことだけを見つめてひた走っていた私は映像の専門学校卒業後、ブラックな製作会社に入り速攻で辞めた。


2004年、専門学校に入学した時点でなんかおかしいなぁ、と思っていたけど世間知らずな私は本当に腰を据えて業界人、職人になる為に努力しながらひた走る同級生に取り残されていた。



私の「好き」なんてあまっちろくて現実味のない夢見がちな馬鹿な趣味にすぎなかった。



会社を辞めた後は工場の日雇いバイトをきまぐれでやったり、TSUTAYAでAVコーナーの担当をさせられたり、映画の仕事はしたいけどしたくない煮え切らない状態で何年もフリーターをしていた。


こんなだらしない生活でも親のすねをかじっていたので、極貧生活を強いられるでもなく呑気に焦燥感に駆られていた。


2010年、高校の同級生が私の大好きな俳優がNYのブロードウェイで芝居をすると教えてくれた。

クリストファー・ウォーケン氏である。

その時すでに70歳近かったので、彼を生で観れるチャンスは今しかないと思い親に借金して単独アメリカに旅立った。


NY独りぼっち。


彼の演技は素晴らしくて本当に来てよかったと思ったが、同時に自分の何もなさが知り合いの一人もいない土地でへらへら好きな俳優をみるためだけに来た25歳の女の空っぽさを浮き彫りにして、ぐわーーーんと衝撃で

ショックだった。



日本へ帰ってきた私はなかなかこのショックから立ち直れなかった。



なにもない。


私はやりたいこともなければ、正社員になってコツコツ働くこともなく、これといった信念もない空っぽな人間だ。

せっかくウォーケンの生芝居を観れても、ウォーケンと同じ地球上に居るとは思えなかった。


NYに行けば何かかわるかも♪

っと思っていた私は自分探しで見事自分の中身のなさをこれでもかと見せつけられ、バイトも辞めてしまっていたのでニートになった。



何日か風呂にも入らず、ぼーっとYOUTUBEを見る毎日。



我が家は両親と兄が一人、私の4人家族だが、皆自由人のボヘミアンなので特に文句を言われなかった。

母は働け~といい感じにプレッシャーをかけてくれたが、もう自信もなければ金もないし、唯一の癒しだった映画もウォーケンショックで遠ざけていた。


いくらボヘミアンな家族でも、わたしのニートっぷりは気が気でなかっただろうと思う。一応女ざかりな一人娘が、一日中部屋からでないで悶々としている。



ある日、様子を見に来た優しい父ちゃんが私の3日くらい風呂に入っていない頭の匂いに耐え切れず「くっせー!!」と言った。


…あ、私臭いのか。



やばい…還暦のおじさんに臭いといわれる私って、相当やばいのでは…。


やっと現実逃避を辞めようと思えた。



働こう。とりあえず働いて社会と関わりを持たなければ。




でもどうやって?

空っぽな私に何ができる。

もう工場は嫌だ。

空っぽな上に会話のない工場でもくもくと働いてもあんま状況は変わらない気がする。

何かたくさんインプットせねば。


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