魔王さまといっしょ
ビターラビット
異世界転生者と謎の子供
あの日、大きな満月が照らす暗闇で、一つの命が消え、別の命が生まれた。
広いふかふかのベットの上で目を覚まし、二度寝をしようとして急いで起きた。そしてもう魔王討伐はしなくていいと思い出し、再びベットに寝転ぶと、クリクリしたお目々の黒髪の赤ちゃんと目があった。
「おはよう……???て、誰!?」
ガバッと起きてもう一度振り返ると、知らない赤ちゃんはこっちをしっかり見て、ふにゃっと笑った後、抱っこしろと泣き出した。
「で、いつの間に子供を?」
「あの……ですから、これは私の子ではなくて」
「でも、この子、君にしか懐いてないみたいだし、他に母親なんて…」
「ですから、私は昨日、魔王討伐から、この国に帰ってきたばかりで、こんな1歳児産んでる暇なんてないんです!」
「では、他に誰が?この国で黒髪は貴方だけですよ」
「じゃあ、他の国の…」
「そうは言っても、もう百年くらい他国との貿易は魔王によって妨害されていませんでしたから。そうよね、貴方」
「そうだな。王女の言う通り、この百年黒髪を持つ国とは交流してない。それに、あの危険な山を越えてくる商人も居なかっただろうからな。取り敢えず、君のお陰で今日からまた他国と貿易関係になれることは感謝するよ。その赤ちゃんの事だが、国が落ち着くまで面倒を見ておいてくれ」
「え!そんな勝手な………はぁ、分かりました。取り敢えず、頑張ってみます。では、失礼します。」
渋々、まだ若い夫婦なのに私に両親のように、屋敷や生活に必要な物を準備してくれた国王夫妻に挨拶をして、赤ちゃんを連れて屋敷に帰ることにした。
ここは色んな種族が共存して生活する小さな王国。レイン王国。ここが私の国であり、これからも住んでいく国だ。
少し前まで魔王に侵略されようとしていた国に私が来たのは、ほんの一年前の話、それまでは別の世界、私で言うと故郷で、現世の日本の田舎町で、高校3年生の福山 七海として最後の部活動。そして受験勉強に励んでいた。それがどうしてか、帰宅途中、突然の土砂崩れに巻き込まれて死んでしまった。
そして気づいたら異世界のこの国、レイン王国に転生させられ、転んで思わず掴んだ聖剣を土の中から引っこ抜いてしまった結果、"聖剣の乙女"と謎の勇者として崇められ、魔王討伐に向かう事になったのだが、その辺の話は面倒だからぶっ飛ばしておいて、兎に角、今、現在の話は、魔王を無事討伐した一週間後の今日。昨日、国王夫婦から頂いた屋敷に帰って来て、次の日目を覚ましたら、知らない赤ちゃんが目の前に、同じベットの中にいたという事だ。
「で、結局、貴方は誰の子なの?」
王城から帰宅して、腕の中の赤ん坊と向き合うが、赤ん坊はキョロキョロと、周りの景色を興味深げに見ていた。
「ちょい、ちょい、何かって、はぁ……こんな赤ちゃんが喋れる訳ないか。取り敢えず、子育てに必要なもの買いに街まで行かないとな〜、でも、魔王倒した勇者にこんな小さい子がいるなんて知られたら……でも、誰も私が異世界から……いやいや、この父親が誰かって聞かれたらどうしよう。はぁ…お手上げだな。だいたい私一人っ子だし、スマホもないから子育てってどうすればいいか分からないから…」
「大丈夫です、ナナミ様、もう何の心配には及びませんよ」
「ん?」
「この屋敷のメイド一同。ご主人様の為なら赤ちゃんの為に尽くす事など容易。さぁ、主様、こちらへ。既に準備は整っています。」
「流石バネッサさん♡準備がいいね」
メイド長のバネッサさんに案内されるがまま隣の部屋に行くと、見た事もないほど豪華な赤ちゃんの為のベットと、衣服の数々、おもちゃなどが並べられていた。
「うわぁ〜、私もこんな部屋で育ってみたい。ね、貴方も………あれ?気に入らない?」
赤ちゃんの方を見ると、豪華な部屋に背を向けて、私の小さな胸に顔を埋めて寝ていた。
「あら?寝るなら…」
バネッサさんがベットに運ぼうと私から引き剥がそうとすると、私の私服用のドレスを凄い力で引っ張って、全然離してくれなかった。
「あの…すいません。私が運びます」
そう言ってベットに寝かそうとすると、目をバッとあけて、ギャーギャーと大泣きし始めた。
「はいはい、もう分かったから、お願いだからもう泣かないで…ね?これでいいでしょ?」
腕の中に再び戻して抱きかかえると、スー、スーと、また寝始めた。
「全く、何で私が良いのよ」
「まあ、まあ、取り敢えず、様もお疲れでしょうから、一緒に昼寝をされて見てはいかがですか?その間に私達も部屋の改良をしてますので」
「そう?ごめんね。取り敢えず、私の腕から離れられるようにしないと、幾ら今暇とはいえ、いつかはどうしても離れないといけない日が来るかもしれないし」
「そうですね。では、今度乳母を探してみましょう。取り敢えず、今日はおやすみなさいませ」
バネッサさんに強引に背中を押されるままに自分のベットに寝かされると、仕方がないので赤ちゃんと昼寝をする事にした。
何かに見られてる気配がして目を開けると、赤ちゃんがジーとこちらを見ていた。
「どうしたの?」
ほっぺたをプニュッと押してみると、ギュッと人差し指を掴まれ、胸の辺りをまたジーと見られた。
「ごはん?」
赤ちゃんは首を横にふる
「抱いて寝て欲しいの?」
コクっと小さく頷いて、寄って来ようとしたのか手足を動かし始めたが、上手く身体を動かせなくてバタバタしていて、何だか愛着が湧いてきて、思わず可愛いと心の中で呟いた。
「ほら、おいで。私の胸、多分貴方のお母さんに比べたらだいぶ小さいけど、心臓の音はよく聞こえる筈だよ」
そう言って、側まで寄っていって胸に耳を押し当てさせると、更に擦り寄って来て可愛かった。
「う〜ん、ずっと赤ちゃんも面倒臭いし、貴方の名前は今日からカイトね」
ちなみにカイトは昔、お婆ちゃんの家で飼っていた犬の名前だ。だけど、そんな事知らないカイトは一瞬首を傾けて、理解するとふにゃとまた笑った。
「よし、宜しくね。カイト」
互いに身を寄せ合って、異世界転生者の私と謎の子供、カイトの共同生活が始まったのであった。
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