第44話 ただ純粋に美味しいコーヒーを飲もう
「ジュンちゃん。はい」
「え。マスター。これ・・・」
「座りなよ」
完全にお客が途切れた時間帯だったので
「ジュンちゃんがルーシーに来てくれて僕は感謝してるよ。固定客もかなり増えてきたし、ジュンちゃんのプロモーションのお陰さ」
「いえいえ・・・マスターの人望ですよ」
「心にもないことを」
「ふふふ」
「
「語呂合わせにしてもものすごい強引さですね・・・はい、大丈夫ですよ。多分」
こういう物言いをする時には大概大丈夫でないことを唐沢は知っていたがあえて触れずにジュンに喋らせた。
「でもやっぱりダメですねえ・・・学生の限界というものを感じています。ちょっと海千山千の大人たちにかかるとわたしみたいな小娘、木っ端ですもん」
「小説家さんが何を言うかね」
「やめてください。わたしは小説家としても亜流の亜流。本流からは見放されてる部類ですから」
「・・・まだしつこく取材要請があるのかい?」
「はい・・・最初の内はわたしのアカウントの宣伝ツイートをコメント付きで引用ツイートして、『永遠のワナビ』とか『文学賞の格が違う』とか子供騙しみたいなのばっかりだったんで無視してたんですけど・・・次は今マスターがおっしゃった通り、『正々堂々と取材に応じることを求める』とか『端くれだろうと小説家ならば表に出るべきだ』とか・・・」
「ひどいね。まともな出版社じゃないね」
「それが。両賞のスポンサーなんで大きな大きな出版社なんですよ。それでマスター。とうとう取材に応じなくちゃならなくなってしまって」
「ええ?なんでまた?」
「わたし個人じゃなく大学に対して取材要請があったんです」
「あ・・・そうか・・・・・・」
「大学側も一応『文学部』っていう看板を出してますから。出版社と交戦状態になる訳にいかないんです」
「でも、自校の学生を守るべきだろう」
「いいえ。『文学に携わる以上、出版社やマスコミとの応対も作家自身のマネジメントです』って言われちゃいました」
「それはそうかもしれないが」
「取材を受けないと除籍処分にするとも」
「ええっ!?」
「どうやらこれが世間知らずのわたしが知らなかった世間、てやつですね」
「いいや。そんなものが世間の訳がない。ひどすぎる」
ジュンは唐沢の言葉を聞いて、自分の席の真正面にある灯台が描かれた海辺の絵を眺めた。波が凪いだ優しげな海だった。その絵に視線を向けたまま、熱い純白のコーヒーカップに、小鳥が嘴でついばむように唇をつけた。
「美味しい」
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