第40話 エンタメをぶっ飛ばそう
ごく限られた文芸サイトランキングではあるものの、まぎれもなくジュンのまだ出版もされていない小説は『照会数』が週間で7位だった。
まぎれもなく
ただ、ジュンはそのレビューと呼べばよいのか垂れ流すような文の羅列と呼べばよいのか、神保町で黒木が露天に置いたジュンの小説のパイロット版を読んだ人間たちが書き殴った『照会文』に不安が募った。
『沈み込むような、だが読む人間を引きずり込むその文章に驚いた。いい意味で、読む人間のその読むスピードをコントロールする文体だと思った』
『これを書いているのは男なのか?女なのか?あるいはそのどちらでもないのか?主人公たちの恋愛の描写は執拗を極めるが、行っている行為そのものは不純さのカケラもないのだ』
『徹底してエンターテインメントではない!』
『わたしはエンターテインメントを欲しない。なぜならわたし自身の人生は決してエンターテイメントではないから。「小説」が欲しい。沈み込むような、そういう雰囲気が貫かれる小説が。エンターテイメントであったかどうかは、結果論でしかない』
分かる。
読むか書くか聴くか歌うか観るか作るか踊らされるか踊るか、と言ったことを通じてしか
けれども、自分の小説が、エンターテイメントではない、と言い切られているのだ。
不安にならない訳がない。
自分の小説がこういう観念の中の住人たちにしか受け入れられないのだとしたら、おそらくジュンは永遠のワナビのまま終わるだろう。
それも、またよしか。
神保町に、生ぬるい風が吹いている。
「ジュンさんよ。どうだい?自分の小説が注目されているっていうのは」
「黒木社長。少し、怖いです。なんだか集団からストーキングされてるみたいで」
「顔を晒す必要はないが、ジュンさんよ、あんた、自分の性根を晒しなよ。本当の本心、ってやつを」
「本心・・・・・・・」
「そうさ。小説を書きたい本当の理由、ってやつをさ」
どうしようか。
すべて、ではないが、ジュンはその一部をツイートした。
『嘲笑のごとき愛想笑いをまずは消し去りたい』
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