勇者になれない俺は魔王に方向転換して世界を救う!?

白陽麗聞

第1部 魔王討伐世界救済編 1章

「なっ、なんだよっ...これっ!?」


その目に写っていた景色はあまりにも残酷で、あまりにも理不尽で、あまりにも驚愕する光景だった...。


そこは古来から人間たちに嫌われた世界だったがその景色は我々人間達が自分勝手に都合よく作り変えてしまった悲惨な世界へと変貌していったのだった・・・。




1年前 


俺の名前は 「ジルド マハード」 ここは穏やかな川のせせらぎが聞こえる聖界、聖地 「ヴァルハラ 」 その南に位置する俺が住む村 「ドンガ」 何故かは知らないけど俺は幼い頃から両親の顔を知らない、物心着いた時には 「シスタービエラ」 が俺の親代わりだった。


シスタービエラはここ、ドンガの教会に務める齢52歳の年配のシスターだ。


ここで俺は15年過ごしてきた幼馴染の2人 「イデア ランドフォール」 と 「サラ ミハエル」と過ごしてきた。


イデアはなんて言うかキザというか、クールというか所々いけ好かないけど仲間思いな頼りになる俺の2個上の頼りになる兄弟分だ。


サラは俺と同い年の15歳の女の子、最初から居たわけではなく9年前教会にやってきて歳も近い関係でそれから良く遊ぶ仲になった。最初は物静かであまり喋らない子だったけどだんだん時間を重ねていくうちに元気で俺とイデアでも着いていけないほどの元気で活発な女の子になった。


そんな俺たちを暖かく見守ってくれるお姉さん的存在の 「シスターミオリア』 シスタービエラの一人娘で幼い頃からこの協会で手伝いをしている現在22歳彼氏いない歴22年の純白の聖女である、昔は俺もイデアも惚れてよくどちらがミオリアをお嫁さんにするかでもめていた時期があった。




そんな今日も朝の集会を終えて清掃をしている中、


「おい!ジルド! 今日も森の中探索しに行くぞ!」


イデアは良く時間があれば俺を誘って協会の裏にある通称「獣の森」と言われている野生の狼が多く生息している危なっかしい森にいこうとする。


「えぇー、またぁ? 俺あそこ嫌だよぉ」


「なに男が行きもせずに弱音はいてるんだよ! これは俺たちが将来この国を救う勇者になる為の大事な修行なんだぞ!?」


イデアは昔から世界に強い憧れを持っていた。よくシスタービエラからヴァルハラのおとぎ話やら、聖界のいろんな町や村の話とかも二人して目を光らせて聞いていたものだ。


そんな話を聞くうちに俺やジルドは大きくなったらいつか二人して世界へ旅立ちおとぎ話のようなヴァルハラの勇者になりたいと心に誓った。ヴァルハラの勇者とは何千年も前にここ聖界と魔物や怪物が生息する魔界が大きな戦争を起こし互いの世界をほぼ壊滅状態にまでなってしまったところを当時聖界の王国軍に所属していた英雄「ヴァルヘルム シュタインゲート」が戦争に終止符を収め聖界に平和と希望をもたらせた、これを後にー聖魔界大戦ーと呼ばれることとなった伝説の昔話だ。




「ほら! ジルド行くぞ!」


「えっ、ちょっ、、待ってくれよぉー…」


俺はほぼ強制的にイデアに引っ張られて獣の森に入ることになった。


10分ぐらい過ぎて森の中腹部にまで着いた。ここは川が近いのでいつもはこの近くで狩りなどをして食料等を取りに来ている、この先は獰猛な獣が多いとのことでシスタービエラには行ってはいけないと耳にタコができるほど言い聞かされたものだ。


それがお互い10歳を越えたときには食料調達と言いながら教会の果物ナイフと鍋の蓋をこっそり装備して森の中腹部の少し奥に入って修業だのなんとか言って獣を討伐していた。最初こそ二人とも怖くてなかなか倒しに行けなかったものの、それも慣れていけばイデアは我先にと獣に攻撃を与えてバンバン倒していった、獣自体も川付近の奴等はそこまで凶暴なのはいないので比較的安全に戦えた。それに比べて俺はというと…


「ジルド! そっちにいったぞ!」


「えっ! ぁあっ! どうしよう…っ! えいっ!」


ースカッ…ボテッ…ー


俺は何度戦闘を重ねても毎度毎度焦ってはドジを踏む頼りない戦闘員だった。


そんなこともあり俺はあまり森での戦闘は参加したくなかった。


そして川を通り過ぎて5分後くらいの場所で俺たちは戦闘訓練を始めた。


「行くぜ! そりゃぁー!!」


やはりイデアは持ち前のセンスで低級ながらも多くの獣を倒していった。


「へっ、こりゃいつまでも負けていられねぇな・・・」


思わずボソッと本音が零れてしまった。


今俺の前方に2体、後ろには1体状況的には挟まれピンチを迎えている。イデアも少し離れた所にいてだいぶ集中攻撃されて身動きがとれない様子だ、ここは俺一人で切り抜けるしか打開策は無い、しかしだからこそ『アレ』を試す機会が来たわけだ。


戦闘面ではイデアとの差が歴然としていたこともあるので俺はこの日まで1人でイデアに差を縮められるように必殺技を編み出していたのだった!


「っ!! ジルド、気をつけろっ! 挟み撃ちだっ!!」俺の周りにいた獣が一斉に目掛けて襲いかかってきた。だがこれで良いこういう挟み撃ちがあってこそ俺の編み出した必殺技はその真価を発揮する。体制を少し低くし、腰を左に捻らせ果物ナイフを左耳まで構える。そこで力を溜めてタイミングを合わせ右足踵を軸に力強く一気に回転する!


「かいっ!てんぎぃ…っ!?」 ードッテェン!!ー


「…りぃ……。」 呆れたことに左足の靴紐がほどけていた所を運悪く右足踵で踏んでいたようで回った瞬間バランスを崩しそのまま盛大に転けてしまった。そしてこれまた悲しいことに襲いかかった獣たちは俺がこけた瞬間3体とも相討ちしたようで気絶していた。まともにくらっていたらと思うと青ざめるが、まぁ決まらない自分に対して不甲斐ない…。


しばらくして日も暮れかかってきたので教会に戻ることにした。


「で、あれなんだっけ? 回転っ(笑)」


「うるさいなぁ!! いいだろ別に! 次こそ完成した技見せつけてやるからな!!」


帰り道散々イデアにバカにされ俺は恥ずかしさの余り顔から湯気が出るのではないかと思うくらい赤くなっていた。教会の前では俺たちの帰りをいつも幼馴染みのサラが待っていてくれた。


「二人ともおかえり~! 今日もお疲れさま♪」


この声を聞くと今日も無事に帰って来れたと実感する。


その夜、夕食を終え俺はまだ昼間の事が忘れられず一人教会の裏の芝生で練習をしていた。


「っ!! くそっ! 昼間はイメージ出来ていたのになんかうまく行かない!」


恐らくだが失敗したことによる恐怖とイデアに対する焦りで回転切りの精度がかなり落ちてしまっていた、せっかく練習してきたのに…。


「なに一人で焦ってんの?」


集中し過ぎて気づかぬうちに後ろにサラがたっていた。


「うわっ! サラいつの間に!?」


「なによ人をまるでお化けみたいに失礼だわ。」


「いや、そんなつもりで言った訳じゃ無いんだけど。」


「悩みがあるならイデアにでも相談すれば良いじゃない、あんたそこんとこセンス無いんだし。」


痛いところを平然と突き刺す言葉に思わず沈黙してしまった。


「ところでさ、明日なんの日か覚えている?」


「えっ! ……誰かの誕生日だったっけ?」


「……覚えていないの?…バカっ!! ジルドなんてもう知らない!!」


そのままサラは教会の中に戻った、俺が何をした?そして明日はなんの日なんだよ!?


色々ありすぎて考えても答えは見つからなくとりあえずその日は寝ることにした。

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