恋する聖女は髪が生えた日を回想する

そんな日々の中、エリスはドロシーとキャラバンの護衛を請け負った際にたまたま同じ仕事を受けていた傭兵魔術師となっていた兄クリスと逢っていた。

クリスは何やらエリスとこれまでのお互いの近況報告の末に、クリスがエリスとドロシーに何やら質問すると、エリスとドロシーは大粒の涙を流して泣いていた。

サムソンとスズネもしばらくエアル達と別行動をとっていた。

エアルとマーシャは主に闇の者達や匪賊や外道術師の逮捕を、サムソンとスズネは薬草などの採取や素材採取目的の魔物の討伐、エリスとドロシーは護衛を主に請け負う日々が過ぎて行った。

そして、そこへ変化が訪れたのはそんな日々が一ヶ月続いた頃の事だった。

エアルとマーシャが出会ってパーティを組んだ日から半年の時が過ぎた時の事だった。

「今日で私とエアルさんがパーティを組んで半年ですね」

エアルと一緒のテーブルで食事をとるマーシャは語り掛けた。

「ああ、出会った時は丸坊主だったマーシャが今じゃあ、腰まであるほど長い金髪ブロントのロングヘアだもんなぁ…」

「あはは…私だって女の子ですから…ずっと丸坊主スキンヘッドでしたから、長い髪の手入れは大変ですけれど…」

苦笑いするマーシャだったが…

「でも、クリスを捕えてから、サムソンとスズネを連れてくるまでに、あんな短い期間で髪がボブカット程度にまで伸びたりするものかな?」

「!!!」

エアルが思った疑問にマーシャは激しく動揺する。

「え…えーと…あれは…」

「?」

「聖水を飲んでしまったら…髪が生えてしまいまして…それで、もう剃るのも面倒になりましたので…」

(う…うん、嘘は言ってない…)

マーシャはそう自分に言い聞かせながら返答した。

「聖水を飲んでしまった?修行の薬膳行の為?」

「そ…そんな所かな…?です…」

ひきつった笑顔で答えるマーシャだったが…その裏で聖水を飲んだ日の事を思い浮かべていた。


あの日、聖水を飲み干した直後…

「あ…あん…!!」

まだ剃髪していた頃のマーシャは小刻みに身体を揺さぶり続けた、そして、変化が訪れた。

ばさささささっ、と剃っていた頭から金色の髪が生える。

身体が揺さぶられるのが止まったマーシャは動揺する。

金髪ブロント…私がこんな髪の色をしているなんて知らなかった…」

「マーシャ…あなたはその殿方に恋をしているようですね…それで、『女』として自分を見てもらいたいと…」

ポーラは母として、聖職者として優しく語り掛ける。

「これが…恋という感情なのですか…!?」

「あなたとその殿方が結ばれるまでには多くの試練が待っているでしょう。ですが、必要とする気持ちがあれば、希望はあります。」

「はい!!」


そんな半年近く前の頃の事を回想していたマーシャだったが…

(はあ…でも、エアルさん鈍いしなぁ…この前、かろうじて私が結構むっちりした体格カラダしている事には気づいたみたいだけれど…)

そう、マーシャは実は防音室での、あの時、自分の大きな胸をエアルの身体や手に当てていた。

(スズネさんの方は、サムソンさんやエアルさんにかなり豊満な身体している事にまだ気づかれていないみたいだし…)

そんな事を考えてながら食事をしていたその時だった。


「た…大変だ!!」

情報通の冒険者ロンがあわてた様子で食堂に入ってきた。

「元領主邸と、高級住宅街の一角で…火事が起きた!!」

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