未来の勇者は復讐を続けさせる

聞いて動揺を隠せない動機の吐露は、敵である闇の者達も聞いていた…。

「へえ…やっぱり、別に俺達に恨みがあるわけでもなかったのか…。」

ディーターはそう呟くと…ルイーゼに対して、勢いよく槌を振り下ろす。

しかし、鈍く激しい金属音と共にルイーゼの剣に槌は受け止められる。

「ああ…!!だが、言ったはずだ、この世全ての悪に対して、私は復讐すると!!その為に私は強くならなければならないんだ!!」

動揺を隠せないエアル達をよそにルイーゼを先頭にリーゼアリア、アリアーヌ、イングリッドも武器や魔法を持ち寄り、闇の者達に猛攻を仕掛ける…だが…

「小賢しい!!」

そう、言い放って振り上げたディーターの槌の一撃に、ルイーゼとリーゼアリアは吹き飛ばされ、後衛のイングリッドにルイーゼの、アリアーヌにリーゼアリアの身体が直撃し、辺りに激しい打撃音が響いた。

「ここで、その復讐を終わらせてやるよ…」

そう、ディーターが言い放つとディーターは倒れたままの4人に槌を振り被り、ブレナも魔法の詠唱を始め、アルミンも弓に矢を番えた。

だが…次の一瞬にディーターが振り下ろした槌はエアルの剣に受け止められた。

ブレナは詠唱の途中でスズネの拳に顎を揺らされ、アルミンはサムソンの放った風の矢で両肩両膝を撃ち抜かれた。

この瞬間に動揺を隠せなかったのは、他でもないルイーゼ一行だった。

ルイーゼ達にマーシャは駆け寄り、語り掛ける。

「もう一度、アクレリアス様の加護で回復させます。もうこれ以上は無茶をしないでください」

「何でだ!?何故、私達を何度も助ける!?」

そう問い詰めるルイーゼにエアルはディーターの攻撃を受け止め続けながらこう答える。

「お前たちに復讐を果たさせる為、だと言ったらどうする?」

「「「「な!?」」」」

動揺を隠せないルイーゼ達。

「この世全ての悪に対して復讐したい、その為に強くなりたい。それなら、ここで死に急ぐ事はせずに生きろ、生きて戦い続けろ。死んだら、復讐も、この世全ての悪を何とかする事も、その為に強くなることも果たせなくなる!!」

そう答えたエアルは、ディーターの槌をはじき返し、その直後エアルの剣はディーターの左肩を貫いた。


アルミンはサムソンの魔法で両肩両膝を撃ち抜かれて、もはや戦闘不能。

ブレナはスズネの拳で顎を殴られて、魔法を唱える処か声を出せずに苦しんでいる。

スズネが叩き込んだ拳こそが「防音拳」チャックアーツ。

元々は、一昔前にゴールデンジューシーより東の大陸シルバーライトニング大陸にて、騒音公害が問題になっていた頃に、騒音公害を暴力によって解決する為に編み出された格闘術。

習得する為には身体を鍛えるのみならず、音を聞く修練と「音」「防音」に関する知識を身に着ける。

生物・非生物共に音を出させない事に重きを置いた拳法であり、耳で音を出すのに必要な敵の部位を見極め、そこへダメージを与えて音を出させなくする。

詠唱が必要な魔法を使う者にとっては、チャックアーツは天敵と言える技であった。


「ふざけやがって…」

ディーターはよろめきながらも、右腕だけで槌を振るうが…次の瞬間。エアルの剣がディーターの右脇を、ルイーゼの剣がディーターの左足を貫いた。

「わかった…そうしよう。」

ルイーゼはエアルにそう答えた。

「形勢不利…!!」

声を出せない苦しみからようやく解放されたブレナはそう呟くと、懐から煙玉を取り出して地面に投げつけ、何人かの闇の武闘家、闇の職人達と共に自分達の姿を煙に巻いてその場から逃げ出した…。

「何人か逃がしたね…でも、ディーターとアルミンは捕まえた。」

そう呟く、サムソン。

「何でディーターを殺さなかった?金目的か?」

そう質問するリーゼアリアに、ルイーゼは。

「これからも復讐を続けられる道を示した礼だ」

そう、答え…。

「何時か、あいつなら成れるかもな…伝説の勇者に」

そんなルイーゼのつぶやきは誰にも聞こえていなかった。

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