勇者は乙女を宣告する

彩極幹徒

プロローグ 物語の始まり、兆候と旅立ちの章

青年冒険者は勇者を夢見る

緑色の肌をした悪鬼族の蛮族…ゴブリンの血塗れの死体が、無造作に幾つも転がっている黄昏時の森。

ゴブリン達の死体の中には、頭部粉砕による即死、腹や胸への強打による内臓破裂といった物理的な攻撃による死体のみならず、中には炎で焼き殺された焼死体もあった。

それらの悪鬼達の死体の山の中…。

赤い髪と金の眼、筋肉質な中背の体格にゴム製のアンダースーツとロウで煮固められた皮鎧を纏った大人の男と呼ぶにはまだ幼さを残し、少年と呼ぶには大人びたぐらいの年頃の若い男が、自身も傷を負い、拳を血塗れにしながらも立っていた。


青年の名はエアル・ヒートフェンリル

伝説の勇者…を夢見る、腕っぷしが強いぐらいで、武術も魔法も平均点ぐらいできる程度の、うだつの上がらない駆け出しの冒険者だ。


依頼を完了させたエアルは、とりあえず討伐の証拠としてゴブリンの首の一つや二つを持ち帰り、報酬を受け取らねば食い扶持を稼げない。

だが、自分はまだ駆け出しで、1人ではゴブリンやコボルドといった最弱にも等しい蛮族や、凶暴な動植物を倒せる程度の腕前しかない。

これでも冒険者デビュー当初よりは身体も精神も強くなっているのだが…。

そんな現状を鑑みて、エアルは誰に話しかけるのでもなく呟いた。

「伝説の勇者を夢見てギリギリまで1人で戦ってきたけれど、やはり1人で出来る事は限界がある。そろそろ誰かとパーティを組まないと…」

そう誰に聞かせるのでもなく呟いたエアルは小型ナイフで幾つかのゴブリンの死体から首を切り取ると、ずた袋に詰めて持ち帰った。


エアルが去った後には多数のゴブリンの死体が残され…そこに人影が通りかかった。

聖職の服装をした端麗な顔をした碧眼の少女、頭は髪の毛一本無いツルツルのスキンヘッドであった。

少女の名はマーシャ・アクアウイング

物心ついた時から神官の修行をしていたマーシャは、修行を始めた時から師にして実の母に髪の毛を剃ってもらっていた。

修行の末に強い神聖魔法の魔力を手に入れたマーシャは、さらなる力を求めて修行の旅の途中であった。

偶然通りかかった森に放置されていたゴブリンの死体を見つけたマーシャは丁重に埋葬して、祈り弔った。

「願わくば、来世では正しき路を行けんことを…」


そう祈りの言葉を残すと、マーシャはあらためて目的地を目指した。

エアルが拠点としている町、交易都市アップルR-12へと…

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