決して恋愛に発展しない残念なファンタジーラブコメ
@kyorikiko
第1話 残念な価値観
コンコンコン
「すみません。この度、車に轢かれ死んでしまいました。名前は
僕はノックをしながら見上げるように上を向いた。目の前には綺麗な装飾が施された巨大な門が聳え立っている、ように見えるがよく目を凝らすと所々錆び付いていて朽ちている。
先程も言った通り僕は死んだ。
普通に生き普通に死んだ、特に劇的な事が起きたわけでもない。ただの日常の一片として僕は死んだ。
今の僕には肉体は無く、精神?だけ動いている感じだ。見た目は煙とでも思って欲しい。
だが肉体があった名残なのか感覚的には手も足も頭も全部ついている様な感じがするから何とも言えない気持ちだな。
それで何故死んだ僕がこんな所に居るのか?生きてるように存在しているのか?
まぁ煙の時点で生きてるように、ではないな。
ま、正直に言って僕は何も事情を知らない。
帰宅途中、交差点を歩く僕の横から眩しい光と共に車が来た……と感じた瞬間には気が付いたらもう此処に居た。
もしかしたら車に轢かれて無いのかも知れない。
「変わった事も起きるもんだな」
錆び付く門に向かって染々呟く。
それにしても返事が無い……もう5分は経過しているのに門は開く気配を見せない。
というか、まずこの門の向こうに女神様、もとい誰かが居るなんて知らない。
ただ何となくそういう存在が居るであろうと推測しているだけだ。
端から見れば煙がブツブツ言いながら門を叩く異様な光景なのだろうが……周りは真っ白で門と僕以外誰も何も存在はしていない。
まるで描きかけのキャンバスの上にいるかのようだ。
「突っ立ってるだけじゃ何も始まらないな」
取り敢えずもう一度だけノックをしようと手的何かを門に近付ける。
すると門の向こうから声が聞こえてくる。
「誰!?」
「
「……誰!?」
イライラしているであろう幼い女性の声がハッキリ透き通るように頭に響いた。
「すみません。面会することは可能ですか?」
「誰に!?」
「女神様にです」
「私!?」
「貴方が女神様なのかは存じませんが、もしそうならそうです」
「最後くらいいっか……少し待ってなさい!」
ふむふむ、今一聞き取りづらいな。
少し待てば良いのか?
少し経過……
コンコンコン
「ちょっと待ってなさい!」
今度はちょっと待てば良いらしい。
ちょっと経過……
コンコンコン
「後一分!」
次は一分待つらしい。
一分経過……
コンコンコン
「ちょっと待ッ!」
ガサガザガザ!ドン!パリン!ドカン!
「もう良いか……入って良いわよ」
それは聞こえたぞ。
……入って良い要素が何一つ無い気がするのだが文句を言っても仕方がないと諦め手を当てソッと門を押す。
油がきれた機械の様な摩擦音を立てながら門は開いていく。
「ッ!」
その瞬間、辺りは眩い光に包み込まれ、閉じていた瞼を開けると何処か分からないアパートの玄関に居た。
「……へぇ?」
混乱状態の頭を落ち着かせ、冷静に周りを見よう。
えーと、床には大量のゴミ袋、キッチンには洗っていないであろう使用済み食器……良し、見なかった事にしよう。
ある意味落ち着いので足場に注意しながらリビングに続いているだろう扉に近づきドアノブを捻り開ける。
「良く来たわね!私が転生を司る華麗なる存在……女神よ!」
ごみ溜めの中に咲いた一輪の花のような少女が居た。
周りには廊下同様ゴミ袋が散乱しており、服をしまうはずのクローゼットは不自然に膨らみ、何故かガラスの破片が散らばり、何処からか焦げ臭い臭いがしてくる。
はっきり言って気持ち悪い。
だがそんな事を気にも止めずに腰まで伸びた金色の髪を靡かせ、不健康とも取れる白い肌を露出させながら女神を名乗る少女は整った顔に色々な感情を写し出しながら話し出した。
「此処に来れたと言うことは貴方には転生のチャンスが与えられたと言うことよ!」
「転生のチャンス、ですか」
「そうよ!元の世界で何の楽しみも無く死んだ哀れな魂にもう一度人生をやり直させてやろう、という事よ!」
少し刺があるような言い方だけど、なるほど状況は把握できた。
つまりファンタジー系お約束、転生の前降りをしている、と言うことで間違いないな。それなら答えは決まっている。
「お断りします」
「ふへぇ?」
少女の間抜けな声が小さな部屋に響く。誰が見ても驚いている顔で少女はぎこちなく口を動かし始めた。
「ななな、何でよ!?悲惨で無念な残念な人生をやり直させてやる、って言ってるのよ!?何で断るのよ!」
さっきより悪化した人生になってる……
「まず前提条件から間違ってます」
「?」
少女は分からないと言った表情で首をかしげる。ちょっと可愛いな。
「そもそも僕の人生は悲惨でも哀れでも、ましてや残念でも無いですよ」
「え?嘘……」
「本当です」
「……じゃ、じゃあこれは何よ!」
少女が何故か首を傾げながら指を一つ鳴らすと一枚のディスプレイが空中に表示される。
写っていたのは中学校時代の僕だ……こう客観的に見ると、そこまで悪い顔じゃないよな。
「ほ、ほら!一人!」
「え~まぁ一人、ですね」
「ほら!ほら!ほら!」
そういって次々画面が切り替わっていく、どれも写っているのは僕。
休憩時間、昼食時、下校、放課後、休日、etc…それぞれに共通することはたった一つ、僕の周りに人一人居ない事だ。
少女が言っている指摘もこれの事だろう。
というか、この世界にはプライバシーは無いのか……
「別に、一人だからといって人生が楽しくなかった訳ではないですよ」
「ふへぇ!?」
本日二度目の間抜けな返事どうもです。
それと僕、何かおかしな事を言っただろうか。
一人=友達少ない=ボッチ=非リア=独り、という初めと終わりが同じになる五の蔑称を総合的に判断すると他人にはその人の人生は悲惨で無惨で残酷なものに写るのだろう。そうだろう。
……まったく、偏見もいいとこだ。
「まず僕は基本的に高性能です、成績順位は常に一桁、運動もそれなりに出来ます、他人との会話、コミュニケーションも苦手ではありません、特に仲が良い人が居ないだけです。社会に出てからも極普通に働き仕事を全うし会社に貢献し普通に生きていました。何時も一人なのは単に効率が悪いからです、群れで行動した場合、皆に役割を分担し決めそれぞれが誰かの指示の元それを行う。何度手間を掛ければ良いんですか、それなら一人で全てをする方が早いですし、正直僕はそれが出来ました」
「……」
止めて、その「この人、滅茶可哀想」みたいな目でこっちを見るのは。
自分の中では普通が至高なのだ。
なので、僕は自分の人生を残酷で無惨で悲惨で哀れな物とは思ってはいない。
だからと言って幸福でも至福とも思っていない。
なぜなら、それが僕の普通だからだ。
いや、一生を友達零で終えるのは果たして普通と言えるのだろうか……いや言える。
「と言うことで、僕どうすれば良いですか?」
「取り敢えず何か適当に転生させるから、頭の中でなりたいものやしたいことを想像して」
取り敢えずで僕の人生決まってしまうんですけど……
なりたいもの?……別に無い。
したいこと?……特に思い付かない。
それに考えるにも、こんな汚い場所じゃあ集中出来ない。
はぁー掃除ぐらいして欲しいものだ。
何だったら僕がしようか?
こう見えて……どうみても煙だが、僕は掃除が結構好きだ。綺麗になった部屋を見るのは分かりにくい会社の成績より、よっぽどやる気を与えてくれる。
「「え?」」
唐突に僕と少女の声が被る。
それもそうだ、突如としてゴミ袋部屋に魔方陣的何かが展開されたのだ。
そして、それはどんどん大きくなり、強い光を上げて部屋もろとも僕を包み込んだ。
「「え?」」
目を開けると何も変わらない。
さっきまでと同じ光景が見えた。
つまりゴミ、ゴミ、ゴミ、だ。
少女が何故驚いた声を上げたかは疑問だが僕が声を上げた理由、それは
「戻ってる……」
自分の肉体が戻っていたからだ。
手も足も頭もきちんと付いている、しかも肌触りからして完全に十代……もち肌だ。
「「これどういうこと?」」
またしても僕と少女の声が被る。
嫌な予感と共に時間が流れ少女はゆっくりと話し始めた。
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