ep Dead End 『九万年と二千年』
『……この子がこの事件の犯人だよ。そして、母さんが言っていた僕の同類……単存在だ!』
私、大切な人を殺しました。
その人は、フィリアという名前の男の人でした。
空の恒星みたいな真っ白い髪以外、とても若い青年のように見えるけれど、その実、何万という時を生きていた人。
二千年と二十三年前、彼とは国で唯一の博物館で出会いました。
『僕はこの子を、屋敷に迎えるよ』
私はその日、世界に流れ落ちたばかりで、文字通りに右も左も分からないような知性体だったのを覚えています。
そんな私に、彼は出逢ったばかりだったというのに、住む場所を与えてくれました。
とっても大きな屋敷に二人で済もうなんて、言ってくれて。
『
名前まで付けてくれて、私の親代わりになってくれていたんです。
十年間、私はフィリアに沢山のことを教えてもらって、与えてもらいました。
生物の事を、人間のことを、神秘のことを。
『人として生きるのは、他人に分かってもらうことでしか成り立たないんだ。他人と理解しあえない生き物は、怪物になってしまうからね。だから……』
彼はよく、私に世界を智ってほしいと言っていました。
正しい意味は、今でも私には分かりません。
ずうっと口にしていたことだったから、彼にとってそれがとても大事だったのだと思います。
もう、私が殺してしまったから、その真相は分からずじまいなのですが。
けれど、フィリアと出会ってから十年後。
彼が私のせいで死んでしまう時に、口から零した言葉。
苦しそうな顔をして、でも無理やり作った笑顔を浮かべて、私に語った台詞。
それが、その言葉だけは、呪いみたいに私をずっと縛り続けているのです。
『九万年、僕にとって君が初めての恋だった』
人の言葉を理解することが苦手な私にも、その意味くらい分かります。
彼は九万年生きてきて、生まれて初めて私という存在に恋という感情を覚えた。
フィリアが私と居てくれたのは、私を好きだったからってことです。
でも、その恋なんて感情のせいで彼は私に殺された。
フィリアは私を綺麗だって言ってくれた。
機体も、心も、魂も。
私の全てが綺麗だって、彼は言ってくれました。
つまり、私が綺麗だったから。
そのせいで彼は死んだのです。
それ以来、私にとって、綺麗は喪失の象徴。
綺麗は、忌むべきものなのです。
そんなことを言ってしまったら多分、フィリアはものすごく悲しい顔をするのでしょう。
でも、私にとって大事なことはその時にはもう、彼といることだったから。
その彼が死んでしまうのなら、私が綺麗じゃなければよかったのにって、今でも思っています。
***
フィリアがいなくなって、二千と十三年たった。
今日は、やけに夜の月が澄んで見える。
そういえば、流星が降る日だったっけ。
流れ星が真に願いを叶えるのなら、世界を止めてしまって総てを叶えられるのに。
そんな事を考えているから、私は孔に気づかない。
薄暗い部屋の中、読書の休憩がてらに窓から夜空を覗いている私は、自らの背に迫っているイセカイの孔を察知することが出来なかった。
気づけば、セカイは交わっていた。
——フィリア。貴方はそこにいたのね。
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