奇縁の止

悠遠美山

人は過去に囚われる。人は未来に縛られる。

『ものがたりのはじまりはじまり』

 …………


 …………


 …………?


 ……あら?


 どなたか、いらっしゃったようね……?


 …………


 ……ふふ、はじめまして。


 ああ、少し驚かせたかしら。


 そうね。あなたが求め辿り着いたのは『物語』の世界のはずですもの。こんな曖昧な『対話』の世界ではない。驚かせてしまって、ごめんなさいね。


 けど、求めているものと与えられたものが違うことなんて、よくある話ではなくて?


 ……そう焦らないで。少しお話をしましょうか。


 私はアイディル。……ん? ああ、姿が見えないのでしたっけ。わたしも、あなたの姿はわからないわ。そうね……とても長い白い髪、紫紺の瞳。背はあまり高くはないかしら。その特徴の中で、あなたが想像しうる全ての美を集めてイメージしたもの。その姿で捉えていただいて構いません。それがあなたの想像しうる私の影。


 天使? 女神様? ……ふふ。あんなもの達と一緒にされるのは、少しばかり、とても気に食わないのだけれど、あなたの世界の言葉で形容するならそんなところで、まあいいでしょう。


 さて、わたしのこと、あなたのことはまた今度お話するとして、今はあなたが目の当たりにする世界について、軽く説明を……


 とおいむかし。ある伝説がありました。悪魔に憑かれた王を倒し、世界に平和をもたらしたひとびと。しかし、それも争いを嫌った大いなるものによって壊されてしまいました。そのとき、一人の騎士が、身を呈して街を守り、人類の消滅を防ぎました。騎士の伝説は語り継がれ、幾度となく人々はその勇気によって、終末を耐え抜いてきました。そして、今回、十回目の終末を迎えます。伝説の世界も、理論の世界も、滅びを迎えるというのです。それを救うのは、勇者の仲間の子なのでした。


 とおいむかしのあらすじはこんなかんじ。もう少し詳しくお話していても良いと思ったのだけれど、そんな時間はなさそうね。

 まったく、あの子、ここを暇潰しの場所にするなんて……


 ああ、こちらの話よ。


 ごめんなさいね? 説明もなしに。

 早速、世界に入ってもらいらしょうか。

 あなたもそれを求めているようですし。


 それと、ひとつだけ。


 あなたはこの世界で起こる出来事を変えることはできない。ただ、見ることしか出来ないわ。どんな運命がその先にあろうと。

 この物語は、人間賛歌ではなく、すべてを等価値に歌った物語。

 人も、魔性も、神も、天使も、悪魔も、そして過去と今と未来のすべてをうたう物語。

 それがわかったら、進むのよ?


 ええ、良い子ね。


 ……では、いってらっしゃい。

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