思い付き異世界もの

zaq2

おもいつき1

 広い通路を走る一つの集団があった。

 その集団の駆けるその先に、一つの人影が立ちふさがるのを確認すると、


「みんな!とまれ!!」



 集団を率いていたと思われる男がそう口にし、駆けていた集団の足が止まった。



「そこをどいてくれないか?あんた」

「・・・これも、仕事なんでな」

「・・・そうかい」



 立ちふさがっていた優男は、その身体に見合わない鞘を左手に持っては、集団を率いていた人物へと突き出すように構えようとしていた。

 が、その動きが完全に終わる前、その率いていた男は優男へと切りかかり始めていた。


 しかし、その行動に驚くそぶりも見せずに、優男はその抜けきらない大太刀で受け止めては、鞘に戻しては鍔迫り合いの状況を作りがしていた。



「お前ら、先に行け!ここは俺が引き受けた!!」

「けど!それじゃ・・・」

「いいから早くいけ!後から必ず追いつく!!」

「わ・・・わかった」



 その力くらべともいえる鍔迫り合いの中、率いていた他のモノたちがその横を走り抜いて行く。


 優男といえば、チラリとそちらへと意識だけを向けたようだが、すぐに興味を失っては力比べをしている相手へと意識を戻す。



「おいおい、いいのか?俺の仲間を通してしまう事になってるぜ?」

「・・・後から追っても、問題はない」

「なら、行かせるかよ!!」



 そうして、そのモノは力任せに距離をとったと思えば、再び二合、三合と、その剣を交えていった



 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・




 気が付けばどれくらいの時がたったのだろうか、あたりには剣戟の余波と思われる斬撃によって建造物が崩れては、崩壊しては戦いの傷跡がのこされていた。

 しかし、それらに比べて優男には傷一つなく、対してその相手をしていた方は、泥だらけという恰好で地に片足をついては、手に持っていた剣を杖の様にしては、肩で息をしていた。



「な、なんなんだよ・・・どんだけ強ぇんだよ、あんた」

「・・・」

「けどな・・・仲間の所には、行かせる訳にはいかねぇんだよ!!」



 最後の力を振り絞るかの如く、沈み込んだ足に力をいれ、優男に対して捨て身ともいえる突進を繰り出すが、それらの剣戟は、鞘からも抜かれていない大太刀によって、ことごとくいなされていた。


 自身の渾身だったのか、その威力は衝撃波や飛ぶ斬撃など、周囲を破壊しているにも関わらず、その優男には届いている風にも見受けられなかった。



「ははっ・・・何だよ、それ・・・届きもしねぇ・・・」



 そんな、自身の想定から現実離れした結果をまざまざと見せつけられた時、大きな爆発音とともに、地面が大きく振動する。



「・・・?」

「へっ・・・うまくやりやがったか・・・あとは、俺が追いつけばいいだけ・・・」



 精魂尽き果てようとしていた者から、笑みがこぼれた。


 何ども届かぬ刃繰り出してた男だったが、その目には未だ諦めという言葉を肯定していないという信念をもち、対峙している優男に向けられていた。


 が、優男はというと、その対する人物とは真逆な、まるでやる気が失せたとでもいう表情をしたかと思えば、先ほど間に手に持っていた大太刀はどこかへと消し去っており、上着のポケットから煙草を取り出しては、指先に火をともしてタバコに火をつけては、大きく吸い込んでは、煙をゆっくりと吐き出していた。



「おいおいおい・・・まだ戦ってる最中に余裕があるじゃねーか・・・」

「・・・仕事は終わった。後は好きにしろ」

「はぁ?どういう事だ・・・?」

「・・・契約不履行。余分な仕事はしない主義だ」



 そういっては、今まで相手した男の横を無防備に通り過ぎ、その場からも離れていった



「お、おい!!」


 離れていく優男に男は声をかけるが、それに対し優男は、振り向きもせずにタバコを持った手をヒラヒラと振っては、



「頑張れよ"若造"」


とだけ返しては、通路奥へと消えていった。



 男は、その消え去った方向をしばらく見つづけていたが、戻ってくる気配がないのを確認しては、仲間たちが向かった方向へと駆け出して行った。





   *    *    *



 契約不履行で出ていくと思った割りに、なかなかに出ていく事ができないでいた優男がいた。


 このアジトの構造は不可解な構造になっていた。


 手順よく進まなければ、元きた道に戻るという構造をしているのだが、おぼろげな知識でよくわからん道を進んではいたが、そうなるとやはり目的としていた場所とは異なる見慣れない場所へと躍り出てしまう。


 ただ、本人としては、それも気にする事もなく歩みを止めずに進み続けていた。

 いつかは出られるだろうという楽観的な思考のままに。


 そうして何度目かの別の広間へとたどり着いた時、見知った人物が崩れた壁に埋もれているのが目に入った。


 藍色で優艶ゆうえんとも妖艶ようえんともいえる姿だった形は見る影もなく、下半身は無くなり上半身の半分も石柱に左胸を貫かれては、その壁に打ち付けられていた。


 生前の彼女を知る優男としては、無惨な姿の死者をしのびないなと思い、その遺体を丁重に埋葬しようかと近づいた。



「あラ、こんな姿ヲ見せて、しまうなんて・・・」



 片目を明けた彼女から、そう言葉が紡がれ、優男は驚きもしたが、



「・・・さすが魔族、と言ったところか?」

「えぇ、ですが、私も、もう終わりです」

「・・・そうか」


 そういいながらも、どこから取り出した太刀で、貫かれていた石柱を切り捨てては、その身体を地面へと降ろす。



「アらあら?アリがとう、ゴザイます・・・?」

「・・・好きでやった事だ」

「ソウ、ですか・・・あなたは、どうしてココに?」

「・・・契約不履行だ。あと、看取るぐらいは・・・してやる。」

「ソう・・・」


 優男としては、死に逝く者に対して、自身なりの礼儀をもって対応する事にしている。

 その為、最後となるであろう彼女のそばにとどまろうと決めてもいた。



「ボスは・・・逝かれたのでしょうね・・・」

「・・・そうみたいだな」

「でしたら、義理は、果たせましたネ・・・」

「・・・そうか」



 煙草の煙を吐き出す音以外、静かな静寂があたりを包む。

 だが、その静寂も長くも続かなかった。

 なぜなら、彼女の涙声で書き消えていったからだ。



「自由が、欲しカった・・・」

「・・・」

「コレで、自由にナりたかった」

「・・・そうか」

「やりたい事、まだマダあった・・・」

「・・・」

「助けテ・・・誰でもいいから・・・」



 優男は、彼女の経歴をあらかた知っている。

 呪いにも近い契約により、幼少の頃よりもこの組織にて生まれ育ったという事も。


 だが、自分にとっての組織との契約分の相手であり、契約が不履行となったため、もう組織とは何の云われももない関係になったが・・・



「助ける・・・か、お代はいくら出せる?」

「エッ・・・?」

「・・・金はいくら出せるか?と聞いている」

「お金は・・・無い・・・」

「・・・なら、無しだ」

「お、オ金は無いけれど、何でもするから・・・私の身体だって、あげるから・・・助けテ・・・助けてヨ・・・」



 すがるように、その動くであろう片腕を優男の脚を強く捕まえ、「お願いよ・・・おネガ・・・」そう弱弱しくなっていっては、捕らえた手から力が失われ、意識を手放していた。



 その言葉を聞き、大きく煙を吐き出した優男は、空間に腕を突き刺しては一つの小瓶をその手にしては、彼女の上に中身の液体をぶちまける。



 すると、彼女の身体が淡く光りだしては、まるで逆再生をするかの様に破損している部分すらも修復しては、元の優艶な姿へと元通りにしていた。



 その振りかけられた液体の名は「世界樹の雫」

 生命のあるモノ・・・・・・・に対して使用すると、健康状態へと元に戻す霊薬の一つ。

 小国の国家予算の半分ほどともいわれる価値のある神薬と言われる代物である。




「・・・さて、秘蔵の治療薬分は、働いて返してもらおうかね」



 そういっては、彼女を布でくるんでは肩に担ぎ、その広間を後にしていった。



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