鬼ノ少女

奈淵梟

第00話

 発表を終え、青年は壇上を降りる。それを、聴衆は冷ややかな目で見届けていた。拍手など一切無い。それだけ、青年の発表内容が悪しきモノだったということだ。

 一体、青年はどんな発表をしたのだろうか。

「あんなものは研究成果の発表とは言えんだろう」

 聴衆の一人がそんなつぶやきをする。むしろこのつぶやきにこそ拍手が起きてしまうのではないかと思うくらいに、聴衆の間には同意の空気が流れていた。

「ここは由緒正しき研究発表の場であるということをよく理解していただきたい。決してSF設定の朗読会などではないのだ」

 司会も兼ねている座長が、たまらず嘆きの言葉を発する。しかしそんな言葉は青年の耳には届かない。発表を終えた青年は、もう既に会場を後にしているからだ。


 青年は、ただ発表ができれば良かったのだ。自分の発表に対して、他の研究者がどう思うかなど興味が無かったのだ。なぜならこの発表、青年にとっては、自分の研究成果を世に広めるためのものというよりも、自分のなすべきことの決意表明という意味合いの方が、明らかに大きかったからだ。

「まぁもういいです。それでは気を取り直して、次の演目に進みましょうか」

 青年の発表を無かったものとするように、研究発表会は進行していく。

 この場に、青年の研究成果を真剣に捉えた者は一人も居ない。もちろん、青年の真意を読み取れた者も一人として居ない。研究発表の結果としては大失敗である。それでも、会場を後にした青年の顔には、狂気じみた笑顔が張り付いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る