第18話 小次郎から政宗へ

拝啓 兄上様


私がこの寺に預けられて、幾月が経ったことでしょう。

兄上が小田原参陣の前に「私を死んだことにする」と言われた時は、さすがに驚きました。

しかし後の事を考えれば、兄上と母上のお考えは正しかったのだと思われます。

あの時、兄上が私を残したまま小田原に参陣していれば、きっと家臣の中から私を祭り上げようとする動きが出て来たことでしょう。

争いごとの嫌いな私では、伊達家をまとめ上げることは無理だったろうと思います。

私が死んだことになった後も、私の居場所を整えてくれた采配には驚きました。

さすがは兄上だと感心したものです。

聡明な兄上の弟であることは、生涯に渡って私の誇りとなることでしょう。

兄上のおかげで、一介の住職として心穏やかな日々を送れること、心より感謝しております。

兄上が江戸に来るたびに、我が寺を訪れてくださり、こんなにも私の事を心に留めていて下さるのだと、兄上の優しさには頭が下がります。

お譲りした白萩は、無事に根付きましたでしょうか?

「私の代わりに、母上が愛でられるように」と言っていた兄上の穏やかな顔が、今でも忘れられません。

常に気を張っておられる様子の兄上の御心と、それを見守る母上の御心が、少しでも安らぐならば白萩も喜んでくれることでしょう。

兄上に教えていただいた精進料理は、こちらでも評判です。

次の機会にも、他の精進料理を教えていただければ幸いです。

兄上から預けられた姉上の御子も、御仏の教えに従い心穏やかに過ごしております。

姉上には、ご心配無きようお伝えください。

この子が生きていると知られれば、長子である限り命を狙われてしまう事でしょう。兄上が私を助けてくれてように、この子の命を守るため、この子は亡き者として何も伝えず穏やかな日々を送って欲しいと願っております。

いずれこちらへ来ることがあれば、成長したこの子を紹介できるかと思います。

姉上や兄上、母上のご健康を常に御仏に祈り、これより先も精進してまいります。


敬具 秀雄より




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