第14話 息子から40年ぶりに会った母へ
拝啓 母へ
40年。
俺は、あなたも親父も妹も弟も継母もすべて恨んで生きてきました。
俺は、あなたと一緒に暮らしたかった。
でも、家を出る時あなたが連れて行ったのは、生まれたばかりの妹だった。
じいちゃんは、半狂乱になって妹を連れ戻しにかかった。
親父は、仕事だと言い訳して家に寄り付かないし、俺は妹を連れ去ったあなたの子供だけど、長男だから仕方ないとばかりに冷たい扱いを受け、散々居心地の悪い思いをした。
何年かした後、妹だけがうちに帰ってきた。
「あんたたちの母親は死んだ。」
そう言われたけど、俺は「別れたんだ」と、俺は「あなたに捨てられたんだ」と思った。
この家に必要なのは長男と言う肩書だけ。
俺は捨てられた。
そう思った時、妹も継母も弟も自分もどうでも良くなった。
20歳で家を飛び出してから、20年近く実家には戻っていない。
借金の返済が遅れたり、警察の世話になって実家に連絡が言ったらしいが、俺の知ったことじゃないって思っていたし、親父たちが怒り狂っている姿を想像してざまぁみろと思っていた。
でも、あの日ばあちゃんが死んだあと、妹から手紙が届いた。
「私達の母親の居場所が分かりました。ばあちゃんが生前行きたいと言っていた観光地に私と息子で出掛けた時、偶然私達の母親の知り合いに会いました。私の顔が母親にそっくりなので声をかけたそうです。その人のおかげで、母親に会うことが出来ました。私は会いましたが、もう会うつもりはありません。ただ、あなたは兄貴は、きっとあの人に会いたいだろうと思うので、連絡先と住所を書いておきます。ついでに、私の連絡先も書いておきます。」
あの時、俺に嫁と嫁の連れ子3人と、俺の子供がいた。
だから、なんとなくあの時の親父の気持ちも、お袋の気持ちも分かった気になっていた。
妹に連絡入れたら、開口一番言われた。
「兄貴よりも要領のいい私が、兄貴に好かれていないのも、親父や母ちゃんが許せない気持ちも分かる。だったら、自分で自分の気持ちにケリつけてくりゃいいじゃん。私は、あの人に会って今の母ちゃんが私の母ちゃんで良かったって思うよ。同じ女としても母親としても、あの人の生き方は納得できない。」
何を言いたいのか分からなかった。
俺はあなたの事を覚えている。
一緒に連れて行って欲しかったし、一緒に居たかった。
本当の事が知りたかった。
だから、嫁と子供を連れて会いに行った。
自分の気持ちや過去や、モヤモヤしたそんなのにケリをつけたかった。
会って分かったよ。
俺とそっくりな性格だったんだな。
顔は妹そっくりだったけど、言ってることは愚痴ばかり。
「連れて行けなかったのは、親父のせい、じいちゃんのせい。
電信柱の影から、あなたたちの成長は見ていた。後悔している。」
そう言っているあんたの横に居る男には、家庭があったんだってな。
あんたは、その男の愛人だったんだってな。
そいつ、離婚してないんだってな。
あんたと会った後、妹に報告しようと思って電話して聞いたよ。
親父と別れた後、あんたが無銭飲食で警察に捕まって、あんたの実家の兄貴が迎えに行って、その男があんたを連れ戻しにヤバイやつらを連れて行ったこと。
あんたの方が、ギャンブル狂いで家庭を顧みなかったこと。
あんたが借金して、その借金を兄貴達が黙って払ったこと。
愛人生活満喫してたんだってな。
あんたの兄貴や親戚にも確認したよ。
がっかりしたと同時に、女のしたたかさってやつを見せてもらった気がする。
死んだじいちゃんが言ってた。
「俺が女で、妹が男だったら苦労しなかったのにな。」
ほんと当たってるわ。
俺が間違ってたんだって思う。
勝手に理想化して、勝手に恨んで勝手に復讐した気になって、勝手に消息不明になって、ばあちゃんの葬式にも出れず、おやじに謝る資格すら無くしてしまった。
あんたにそっくりだわ。
そんな俺に、半分しか血の繋がってない弟がなんて言ったと思う?
「兄貴は兄貴の人生生きればいい。実家のことは、お口は弁護士心は詐欺師の口八丁の姉貴が居るし、姉貴が暴走しても俺が止められるしw兄貴のトラウマは、なんとなく気付いてたけど、気付かないふりしてた。ごめん。」
あんたも俺も、どこかで何かを間違えたんだと思う。
やり直しのきかない人生はないと思う。
出来ることなら、あんたの実家に行ってきちんと兄貴や親戚に謝って欲しいと思う。
まぁ、俺に出来ないんだから無理だと思うけど。
俺の嫁から聞いた話だけど、妹が親父に抗議して何とか嫁と子供には会ってくれるらしい。
俺には会いたくないって言ってるらしい。
その通りだと思う。
けど、俺の子供と嫁には会ってくれる。そうセッティングしてくれた…セッティング出来た妹と弟と、母ちゃんには感謝してる。
気持ちの整理とか、俺の間違いとかやり直すには、まだ時間がかかると思うし、あんたにも時間は必要だと思う。
だから、妹と同じことを言わせてもらいたい。
「自分の人生、人のせいにして生きても楽しくないよ。そうなったのもそういう人生も笑い飛ばしてなんぼじゃん。」
その通りだと思う。
今になって、じいちゃんが言ってたことの意味が分かる。
俺はじいちゃんからすれば、性格があんたそっくりだったんだ。
自分の不幸や苦労を誰かのせいにするところも。
一歩踏み出さなきゃダメなことも分かった。
だから、しばらく会わない。
俺は、俺の人生生きようと思う。
誰のせいにでもなく、自分なりに自分に向き合おうと思う。
あの時、一緒に連れて行って欲しかった俺と、これから向き合っていこうと思う。
あんたも、自分と向き合って欲しい。
敬具 息子より
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