76.用済み
無の魔法で形作られた網の中、狂気が完全に消失したことは明らかだった。遂に……遂に全て倒した……。
俺はなんともいえない達成感に包まれていた。
まさか、魔王退治……いや、嫌がらせの旅に過ぎないと予想していたものが、魔王を遥かに超える化け物どもの掃討につながるとは夢にも思わなかった。
しかし、やつはなんで俺を追ってきたんだろうな? 戦いというものに真っすぐだった分、嫌味とかまったくなくて逆に純粋さを感じた。
「――オルドよ、無事か」
「無事ですか、オルド様」
「おっ……」
フェリルとクオンがロクリアたちを連れてやってくる。
……てか、まーだあいつら寝てたんだな。人が必死に戦ってるってのに、呑気なもんだ。
「ああ、フェリル、クオン。なんとか勝ったよ。かなり強敵だったが……」
「グルルァ……その割に嬉しそうであるな」
「ですね……ウミュァアッ」
「わかるか……。いつもセーブ気味だったのが、久々に全力で戦えたからな。さて……」
これだけ楽しんでおいてなんだが、俺にとってのメインイベントはこれから始まるんだ。ロクリアたちへの嫌がらせの総仕上げというやつで、終わったら用済みになるというシビアなものだが、だからこそ心置きなく嫌がらせを楽しめる。花は散るからこそ美しいのだ。
例の化け物を、襲ってきた理由を聞くために復活させるのはそのあとでいい。というわけで、俺はロクリアたちが起きるのを待たず【逆転】スキルで強制的に目覚めさせてやった。
「――あれ? ここはどこだ……」
「確か、わたくしたち化け物に追いかけられて……」
「だな……バブ……」
「よね……あへぇ……」
「……」
アレクとロクリアのやつ、もう正常な状態なのはバレバレだってのによくやる。若干苛ついたが、気を取り直してお楽しみの時間といこうか。
「うぅっ……ゴホッ、ゴホッ……!」
というわけで、俺は死闘の果てにボロボロな見た目になってるのをいいことに、激しく咳き込んでやつらの注目を集めてやった。
「「「「……」」」」
「はぁ、はぁ……つ、遂に……遂にやったぞ。半分の魔法力で、魔王に……勝って、みせたんだ……うっ……?」
俺はよろめきつつうずくまると、視線を逆にしてやつらの様子を覗き見ることにする。
みんな最初は起きたばかりなせいか戸惑い気味だったが、徐々に本来の邪悪な表情を取り戻しつつあるのがわかった。よしよし、鬼畜勇者パーティーはこうでなくっちゃな。
ってなわけで、フェリルとクオンに目配せしてこの流れに乗ってもらうことにした。
「グルルァ……覚悟はできているだろうな、オルド」
「ウミュァアッ、できてますよねぇ?」
二人の演技は完璧だった。あの鬼畜どもがこれに便乗しないわけがない。
「バブ……いや、今までよくも苦しめてくれたな、クソオルド……」
「あへへ……じゃない、ここで死んでもらうわよ、魔王退治ご苦労さんね? 踏み台オルド……」
「なっ……ど、どういうことだ、ロクリア、アレク……? お前ら狂ってるんじゃなかったのか……? ごほっ、ごほっ……」
俺は平然とした顔を【逆転】し、露骨に驚いた顔を向けてやる。やつらには相当にびっくりしてるように映るはずだ。
「「「「ププッ……」」」」
「……お、俺を騙していたというのか……。せっ、折角、今回もみんなのために頑張ったっていうのに……畜生……た、頼む、見逃してくれ……」
「まったく、本当に哀れな男だな、オルド……いや、馬鹿賢者というべきか」
「賢者というより、これじゃ愚者さんですねえ」
「へっ、覚悟しろ……最後まで苦しみ抜いて死ぬことになるんだからよ……」
「ふふっ……永遠にさようなら、アホ賢者さん。正直、あなたの存在自体が許せないので、最後は生きたままモンスターの餌食にでもなってもらうわね。死体も残らないって素敵じゃない……?」
エスティル、マゼッタ、アレク、ロクリアからの宣戦布告を前にして俺は震えていた。勇者パーティーからここまで言われるんだから俺は真の魔王的な存在なんだろう、きっと。
「……ち、畜生おぉ……」
俺は悔しそうな顔と口調でやつらをさらに喜ばせてやるわけなんだが、上げて落とす準備ができたので心の中ではニコニコだった……。
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