67.終止符
「あははっ……」
「ンッ……?」
余裕の表情のエルナドとは対照的に、明らかに動揺した顔になるガリク。うっかりエルナドのスキル効果範囲内に入ってしまったからだ。
(お、俺は何を【無効化】された……? 動作……じゃない。スキルか? それはまだわからない。一体、何を……)
「ガリクって人。俺が何を【無効化】したか教えてあげよっか? まあでもそのうちわかるかもね……?」
「な、何を……うっ……?」
ガリクは気付いた。息を吸えないということに。
「やっとわかった? 気付きにくかったよねえ。息を吸えなくしてやっただけだし。これで僕の勝ちは決まりだよね? ただ体力的にはもう厳しいから、長期戦に持ち込まれてたら危なかったけど……」
「っ……!」
剣と膝を落とし、自分の喉を苦し気に押さえてうつ伏せに倒れ込むガリク。
「どう? 苦しい? せめて苦しまずに死ねるように、苦しみを【無効化】してあげよっか……?」
余裕の表情を浮かべるエルナドだったが、ガリクのほうに歩み寄った途端、その足首を掴まれる。
しかし、苦しみゆえか貧弱すぎるガリクの握力は、決してエルナドに脅威を感じさせるものではなかった。
「あははっ。まだそんな元気があるのか。でも、もう遅……いっ!? いでえぇぇっ!」
「……」
エルナドが苦悶の顔で倒れて足を抱える一方、無言でゆらりと立ち上がるガリク。
「な、なんで強く掴まれてもないのにこんなに痛いんだよ……。で、で、でもっ、今動きを【無効化】してやったから、お前はもう一切動けな……」
立ち上がろうとするエルナドの首に、落下してきた剣が突き刺さる。
「ルディ、ア……」
「すーはー、すーはー……ンッ。オウイエッ。さすがにもう死ぬかと思ったよベイベー……。最初から心臓の鼓動でも止めておくべきだったと思うぜ。俺は弱い力でも相手に遅れて激痛を与えたり、投げた剣を命中させたりできるほどテクニシャンな上、どんな苦しみにも耐えられるマゾなんだから……ンンッ、もう誰も聞いちゃいないか……イイッ……!」
陶酔した表情のガリクの傍ら、エルナドは既に息をしていなかった。
◇ ◇ ◇
「――はっ……」
ライレルは鳥肌が立つような感覚を味わっていた。
(これだ……これこそ僕が求めていた答え……オルド様はもう、僕に素晴らしい贈り物を与えてくださっていたんだ。なのに、もっと求めようとするばかりにすっかり忘れちゃってた。僕はいけない子だ……)
「さあ、小娘! これで楽に死なせてやるよ! ……うるるあぁっ!」
ルディアが低姿勢から左の拳で地面を叩き、猛然とライレルへと向かっていく。
「がはあっ!」
土煙とともにライレルの体が高々と宙を舞い、ルディアの分隊兵たちから歓声が上がる。
「ルディア様が悪魔の申し子を討ち取ったぞ!」
「さすが伝説の拳聖ルディア様!」
「村人ども、ざまーみろっ!」
「……」
徐々に薄れゆく土埃の中から、ルディアが信じられないといった表情で現れ、分隊兵たちがぽかんとした顔になる。
「「「ルディア様……?」」」
「……こほっ、こほっ……」
「あ、悪魔だっ!」
「生きてやがる!」
「おいおい……嘘だろ!?」
その近くで倒れていたライレルが咳をしながらも立ち上がり、分隊兵たちの顔が見る見る青ざめていった。
「……ま……まさか、あんたのほうから突っ込んできて、こっちの勢いを相殺してくるとはねえ……はぁ、はぁ……ぐぐっ……かっ、考えたもんだ……。しかもその分……拳……を、突き上げるタイミング……遅れちまった、よ……ククク……クッ……」
苦笑いを浮かべるルディアの口から血が滴り落ち、まもなく左の拳を地面に突きつけたまま動かなくなった。
「「「ルディア様!?」」」
「……分隊兵さんたち、残念だけどルディアならもう死んでるよ」
「「「え……?」」」
「相当な深手を与えてるのに、あそこまで喋れたのが奇跡なくらいだよ。悲鳴しか上げられないくらい苦しいはずなんだけど……」
「「「……」」」
「さて。【無効化】スキル持ちのエルナドもガリクがやっつけてくれたみたいだし、次は君たちの番だねっ。死ぬ前に少しは苦しんでもらうから覚悟して頂戴……」
「「「ひいいっ……!」」」
ルディア、エルナドという二枚看板を失った分隊兵たちに、最早抵抗する術は残ってはいなかった。
「「「――ぎゃああぁぁぁっ!」」」
(……オルド様……僕、遂にやったよ。待っているだけじゃダメなんだって、行動しなきゃいけないってそう教えてくれたのはあなただから――)
「――オウッ、ベイベー、俺、遂に勝ったよ……」
「あっそ。ガリクなんて相打ちで死んじゃえばよかったのに」
「そりゃないっす! まあ気持ちいいけど。ンッ……」
「ふふっ……」
ガリクに向かって舌を出して悪戯な笑みを浮かべるライレル。被追放者の村が、ようやく平和を取り戻した瞬間であった……。
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