65.罪滅ぼし
「勇者パーティーには、あたしがいなくても魔王を倒せる力はあった。だからこそ、当時のあたしは強すぎる自分の存在に疑問を抱いていたのさ」
「疑問……?」
「このままあたしがパーティーに残ったら、逆にアルフたちの出番を奪いかねないし、困らせてしまうことになるんじゃないか? ってね。なのに、何度抜けようとしてもアルフに止められたよ。このパーティーには君が必要なんだ、って……」
「それって……勇者様は、あなたのことが好きだったのでは?」
しみじみと話すルディアに対し、ライレルが興味深そうに話しかける。
「ば、馬鹿言うんじゃないよ! ……要するに放っておけない性格だったのさ、アルフは。もし万が一好きだったとして、貴族と平民が一緒になるのはたでさえ大変なのに、相手は勇者様だ。釣り合うはずがないじゃないか。大体、あたしは顔もよくないっていうのに……」
「……ク、ククッ……」
「み、味方なのにそこで笑うんじゃないよ、エルナド! どうせあたしの顔は悪いさ!」
「ご、ごめん……。顔のことじゃなくて、素直になれないルディアがなんか面白くて……」
「あ、あたしもまだ若かったからしょうがないだろ!」
「イテテッ!」
エルナドの頭を叩くルディアの顔は真っ赤だった。
「……アルフは、あたしがもう子供の頃のようにはいかないって言ってるのにしつこく幼馴染面してくるから、つい言っちまったんだよ。あたしは自分より弱いやつには興味がないって。それにあんたのせいでほかのメンバーに嫉妬されるし、正直見るのも嫌なくらいだってね。あたしが馬鹿だったんだ。自分の本当の気持ちにも気付かずに……」
ルディアの目元に薄らと涙が浮かんだ。
「その日の翌日、アルフに呼び出されて追放を命じられたよ。あんな厳しい顔、今まで見たこともなかった。甘えられてるなんて思ってたけど、甘えていたのはあたしのほうだったのかもしれないねえ。魔王が倒された日、あたしは王都での凱旋パレードを遠くから見ようとして……けど、いなかった。アルフは、もうこの世には……」
「もしかして、魔王にやられちゃったの?」
「……ああ、そうさ。アルフは魔王との戦闘の際に受けた傷が原因で死んじまったんだ。死ぬ間際まで、あたしに会いたいって言ってたそうでねえ……。あたしがいれば助かってた可能性が高いんだし、間接的に自分が殺したようなもんさ。だから……この戦いは贖罪なんだよ……」
「贖罪……?」
「そうだとも……。あたしはあの日の身勝手な自分を倒したいんだよ。あの優しいアルフが追放しなきゃいけなかった甘ったれた自分を……。だから、追放されたやつらが集まって慰め合ってるようなこんなふざけた村、ぶっ潰してやりたいんだよ……」
「……ル、ルディア……ぐすっ……そんな悲しい過去があったなんてぇ……」
ボロボロと涙を零すエルナド。
「ったく、大の男がみっともないよ! 涙を【無効化】しなっ!」
「ひっく……せめて【半減化】で……」
「ホント、あんたってやつは女々しいやつ――」
「――それも個性では?」
ライレルの投げかけた言葉で、ルディアがはっとした表情になった。
「な、何が言いたいんだい……?」
「ある偉大な人のスキルのおかげで僕は女の子になれたけど、かつては男だった。性別を変えたいっていうのはずっと夢見てきたことで、僕みたいな人はほかにもいると思う。勇者アルフのことは残念だけど、それを受け入れることができなかった過去のあなた自身も……治すべきもの、倒すべきものっていうより、一つの個性だったんじゃないかなって……」
「……」
「きっと、推測でしかないけど……アルフはそういうのも含めてルディア、あなたのことを好きに――」
「――わかったような口を利いてんじゃないよ、小娘っ!」
ルディアの一喝で場が俄かに緊迫する。
「どれだけ御託を並べようと、昔の自分のせいでアルフが死んだことに変わりはないのさ……。その恨みを今こそ晴らすべきだ。被追放者の村だなんて、昔のあたしが沢山いそうな村……この拳で木っ端微塵に粉砕してやるってんだよ!」
「……ラ、ライレル様、もう説得は無理かと……」
「……うん、仕方ないね。こんな話を聞いたあとだし、できればやり合いたくなかったけど……」
「それいいんだよ。あたしは元から死ぬ気でここへ来てるんだ。エルナド、あんたはあの男とやり合いな」
「……ル、ルディア、僕も戦うよ、精一杯……」
「いい顔してるよ、エルナド。やっと男になれたね……」
「それじゃ、ルディア。女は女同士で」
「あいよ」
「ライレル様ー、俺にはなんか一言ないんですか?」
「ないっ!」
「……嗚呼、この捨て駒感、イイッ……」
「まったく……でも、ガリクのおかげですっかり緊張が解れたよ」
おもむろに剣を構えるライレル。それまで若干怯んでいた表情は少しずつではあるが着実に引き締まりつつあった。
(……いよいよ、決戦だ。多分、負けたほうは死ぬと思う。でも、オルド様……僕は負けないから。絶対、あなたのお嫁さんになってみせるから……!)
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