50.少数精鋭


「逆賊ども! よく聞くのだ! この村は既に包囲されている! 死にたくなければ今すぐ投降せよ! これは王命である!」


 王都から派遣されてきた兵士たち、その数は千人ばかり。隊を率いる少佐パドルフは内心しらけていた。


(一体なんだね、ここは……。集落といってもいいくらいしょぼくれた村じゃないか。こんなところに兵士を千人も送り込むとは、王様も遂に耄碌なさったか……)


「少佐! 村人たちが一向に出てきません!」


 兵長の言葉に、パドルフは豊かな口髭を弄りつつ鼻で笑う。


「ふんっ……どうせ怯えて出てこられんのだろう。よーし、構わん! やつらを無理矢理にでも引き摺り出し――」


「――おじさん、待って!」


「なっ……?」


 兵士たちの前に颯爽と現れたのは、だった。失笑が上がる中、パドルフは呆れ顔で屈み込み彼女と同じ目線になる。


「お嬢ちゃん? おじさん、待って! だなんて、誰に向かって言ってるのかなぁ? 悪い大人にならないためにも、言葉遣いには気をつけるんだよぉ? おじさまぁ、待ってください、でしょ?」


「あ、あのぉ……」


「人の話は最後まで聞きなさいっ。ね? あと、その腰に吊り下げた剣だって重いだろう? 怪我をする前におじさんに渡しなさいっ。それと、早く降参するようにみんなに言ってくるように頼んだよ? ちゃーんとできたら、お小遣い――」


「――いらねえんだよ、スケベジジイッ!」


「……え?」


 少佐の着ていた鎧は少女の繰り出す剣によって一瞬で切り刻まれ、下着姿になっていた。


「あなたのほうこそ、怪我をしないうちにお帰りください。お爺さんっ」


「……な……な……」


 ウィンクして少女が引き上げる中、わなわなと肩を震わせるパドルフ。


「う、うぬぅ……ふざけおって。や、やつめはいわゆる冒険者という類なんだろう! であるからして、その象徴ともいわれるスキルを使った卑怯者にすぎん! おそらくはだろうから怯むには及ばん! 行くぞっ! あの小娘は犯してもかまわん!」


「「「「「おおおっ!」」」」」




 ◇ ◇ ◇




「な、なんだ……と? 送り込んだ兵士たちが全てやられただと……?」


「は、はい、王様……」


 謁見の間はしばし重い沈黙が支配していた。


「信じられん……。パドルフは老いてはいるが歴戦の強者だし、あの男が手塩にかけて育ててきた兵士たちが、よりによって素人同然の村人なんぞに返り討ちにされるとは……」


 頭を抱える王だったが、まもなく我に返った様子で目を見開き、肘掛けをポンと叩いた。


「そうだ、あそこは迷いの森が近い。おそらく村人ではなく恐ろしい化け物にやられたのだ。きっとそうなのであろう……?」


「それが……偵察隊の話によりますと、村人たちはいずれも強く、中でも一人の少女が悪魔の如き強さであり、剣捌きすら速すぎて目視できなかったとか……」


「……ぬうぅ……ならばオルドめが【逆転】スキルとやらで村人どもを強くしたというのか……? 抜かりのないやつめ……」


 悔し気に見る見る顔を赤くする王。


(オルドが関わっているなら納得できる話ではある……。しかし、できればこの結論には達したくなかった。【逆転】スキルとやらで村人がここまで強くなるなど……)


「それで、どういたしましょうか、王様。また兵を――」


「――いや、たかが数百人しかいない村を千人の兵で攻めても歯が立たなかったのだ。そこは、スキル持ちを集めるとしようではないか。少数精鋭で行くのだ」


「なるほど……」


「もちろん、あの無効化スキルの持ち主もな。あれの対象は魔法だけに限らんだろう。武力もゼロにできるはずだ」


「……あの……」


「ん、なんだ? 大臣。早く言わんか!」


「王様、お言葉ですが……あの男は例の件以降心を患っているらしく、家に引きこもっていてと言っているとか……」


「馬鹿者っ! だからどうしたというのだ、引き摺ってでも連れてこい! でなければまず大臣、お前の首から飛ぶぞっ!」


「しょ、承知いたしましたっ……」


「……」


 王は歯軋りしつつ宙を睨みつけた。


(オルドめ……どこまでわしを愚弄すれば気が済むのか。民を手懐けて自分だけの王国でも作るつもりか? この国にどれだけの歴史があると思っておる。絶対にこの国はお前なんぞには渡さんぞ。王室は王室、貴族は貴族、平民は平民、奴隷は奴隷としての生き方があるのだ。その秩序を乱す者は誰であっても容赦はせん……)

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