45.圧
「――ふう、こんなもんでいいか……」
あれから、酔っ払ったアレクを筆頭にどんちゃん騒ぎが始まったので、起きた状態と睡眠状態を【逆転】し、やつの取り巻きもろとも眠らせてやった。
あと、ほかにも絶対やらなきゃいけないことがあって、手に残った汚物の触った感触を触ってない状態にして、さらに気持ち悪さを逆にするのも忘れない。次に性別を元に戻し、オルレアンからオルドに戻った。
「……」
な、なんだこの異常な安心感……。元に戻ったことで鳥肌が立つくらい脳がリラックスしているのがわかる。やっぱり女の子になるのは、そもそも望んでるやつじゃないと厳しいな。向かってくる視線が妙にジメジメしてて重いんだ。
俺は最後に服をドレスから地味なローブに戻し、ささやかな平和を取り戻した気分だった。
「オルドよ、正直すまんかった」
「オルド様、ごめんなさいです」
フェリルとクオンが申し訳なさそうに近付いてくる。
「ん、気にするなよ。俺が言わせたことだからな」
「グルルゥ……とはいえ、このような非道な連中に味方し、友人であるオルドに背くのは演技であっても嫌なものであるぞ……」
「ウミュゥ、クオンもです……」
「あぁ、俺のほうこそ悪かったな。でも、これでこれから俺がやろうとしてることがわかっただろ?」
「……わからん」
「……わからないです」
「……」
二人の顔がちょっと赤いし、昨晩あいつらから無理矢理飲まされた酒のせいで頭が回らないんだろう。【逆転】で酔いを醒ますついでに説明してやるか。
「よし、今から教えてやろう……。アレクとロクリアは元の状態に戻ったとはいえ、俺の見てる前では今までと変わらず狂人の真似をしないといけない。しかも、魔王を倒すまでは俺の力を借りなきゃいけないから豹変することもできない。だからそれまで思う存分弄らせてもらおうってわけだ。頭が正常な分、かなり苦しむことになる」
「グルルゥ、なるほど……」
「ウミュゥ、なるほどです……」
「……ただ、あんまりしつこく弄っちゃうと正気なのが俺にバレてると気付かれる可能性もあるし、ほどほどにするつもりだ。フェリルとクオンは今までのように俺に冷たい態度で接してもらうが、やつらを俺が弄ってその反応を楽しむことで溜飲を下げてくれ」
「わかった、オルドよ」
「オルド様、わかりましたです」
「……」
二人の切なそうな視線が痛い。
「フェリル、クオン……飢えてるのか?」
「……やはりわかるか」
「……はい、飢えています」
「では、パワーを籠めて撫でてやろう……」
「グ、グルル、ァ……」
「ウミュッ……ァ、ア……」
というわけでいつもより愛情を籠めて撫でてやった。
しかし、酒を飲むことに集中していたとはいえ、正常アレクがフェリル、クオン、それに……オルレアンに手を出そうとしなかったのは意外だった。
多分、あの偽の手紙の件があるからだろうな。誰彼構わず手を出してしまえば自分たちの人間性が疑われかねないと判断したんだろう。アレクの本性はどうしようもない性欲お化けだから、何かなければ手を出さないはずもない――
「――オ、オルレアンちゃあん……」
「えっ……」
アレクが俺の足を掴んできて戦慄する。眠らせたはずだが、何故……。
「……はぁ、はぁ……必ず……必ず全部終わったら……俺の子を孕ませてあげるぜぇ……」
「……」
なんだ、寝言か……。しかも行動まで伴うとは、なんという性欲の深さだ。それに敬意を表する意味でも、こいつはいずれ去勢してやらないといけないな……。
「ク、ククッ……す、すまん……オルドよ、相当気に入られてしまったようであるな……」
「ププッ……ご、ごめんなさいです、オルド様。凄く綺麗だったから当然だと思います……」
「……」
誉められたのにあんまり嬉しくないな。
ところで、例の尾行してるやつが透明な状態で窓から覗いているのはわかるんだが、圧が少し削れたような気がする。一連の会話を聞いたせいなんだろうか? 狂気染みた圧倒的な気配を漂わせてるのに、意外と人間臭いところがあるのかもしれない。
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