43.歓迎会


「ここであるか」


「ここですか?」


「ひっく……よく来た。フェリルどの、クオンどの」


「よく来ましたねぇ……おえっぷ……」


「「うっ……」」


 すっかり暗くなったグラニアル村の小さな宿にて、不快そうに鼻をつまむフェリルとクオンを笑顔で迎えるエスティルとマゼッタ。


 この村にも何かを恐れるようにモンスターが攻めてくる気配は今のところ微塵もなく、狭間地帯への出発前夜ということもあって、宿の中にいる者はみなほろ酔い状態であった。


「うぷっ……酒臭くて悪いが、オルドどのが今どういう状況か教えてもらいたい……」


「で、ですぅ……」


「うむ、わかった、オルドからは――」


「――マ、ママァ……!」


「「……」」


 フェリルとクオンの元へ這い這いで向かおうとするアレクだったが、即座にロクリアにされる。


「ママは私よ~?」


「バ、バブ……?」


 恐々とロクリアの胸元を揉みしだくアレク。


「や、やぁん。アレク様ったら……オラッ!」


「バブェッ!?」


 笑顔でアレクの顔に拳をめり込ませるロクリア。


「良い子はもう寝る時間でちゅよ~?」


「……バ……ブ……」


「うふふっ……」


 アレクはロクリアの言う通り、すっかり気絶してしまった。


「「……」」


「フェリルどの、クオンどの、どうか気にせず話の続きを……おえっぷ……」


「ですぅ……うげ……」


「わ、わかった……。なんで我が急に冷たくなったのかと問い詰められた」


「クオンもです」


「「ププッ……」」


 エスティルとマゼッタが口を押さえつつ愉快そうに顔を見合わせると、輝くような期待の眼差しをフェリルたちに向けた。


「「それでそれで?」」


「……原因となった手紙に関してはオルドを刺激してしまうと思って話さず、こうなった理由は自分で考えてほしいと伝えた」


「そしたら、オルド様……いえ、オルドは涙ながらに思い出を語り始めてしまって……話が長いと思って途中で逃げてきました」


「「ブハッ……!」」


 エスティルとマゼッタの目尻は下がるばかりだった。


「堅苦しい割には女々しいあの男らしいな、マゼッタ」


「ですねぇ。どんな顔をしていたのか見たかった――」


「――コホンッ……よろしいでしょうか……」


「「あっ……」」


 陰口で盛り上がる中、その場にドレスに身を包んだ美しい女性が現れる。


「ど、どうも……【精神回復】スキル持ちのオルレアンと申します……」


 オルレアンと名乗った女性は、スカートの裾を軽く持ち上げながら照れ臭そうな笑みを浮かべるのであった。




 ◇ ◇ ◇




 満を持してあいつらの前に登場してやったわけだが、正直ここまで心臓がドキドキするとは思わなかった。魔王との決戦前でも味わったことがない緊張感だ。


 股間がスースーする感じで違和感抜群な上、ジロジロと女として見られるということがここまで応えるとは思わなかった。そう考えると、女になっても今までと様子がほとんど変わらなかったライレルは化け物だな……。


「よろしく、オルレアンどの! 自分はエスティルという者だ」


「わたくしはマゼッタと申しますぅ。よろしくですぅー」


「……」


 知ってるよ。嫌というほどな……。


「よ、よろしくです、皆さま、どうかよしなに……」


「……マ、マーマァ……!」


 うわ……アレクのやつが這い這いで俺に近付いてきた。こいつ、ロクリアに散々ボコられてズタボロ状態なのにスケベそうな面して見上げてくるもんだから鳥肌が立つ。女に対する執念は本当に物凄いな……。


「あへへえ……アレク様ぁ? はここよ~」


「バ、バブッ!?」


 後ろからロクリアに足を掴まれて持ち上げられるアレク。あいつ、こんなに腕力あったっけ。狂ったことでリミッターが外れてるのかもな……。


「高い高ーい!」


「ビャブウゥゥウー! ブビャッ!?」


 思いっ切り回したかと思うと、急に手を放されたのでアレクは顔面から壁に激突し、白目を剥いて倒れた。いい気味だ。実際に女になってやつの脅威を肌で感じたせいかよりそう思えた。


「可哀想なアレク様とロクリア……。オルレアンどの、どうかこの二人を元の精神状態に戻してやってくれ……」


「お願いですぅ、オルレアン……」


「……」


 正直全然可哀想じゃないし元に戻すのも嫌になってきたが、これもこいつらをさらに苦しめる作戦のためだからな。仕方ない……。

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