35.探り合い
「――アックション!」
王都の出入り口へ向かう途中、迫力のあるくしゃみが出た。
すっきりはしたが、メンバーだけじゃなく近くにいる人々がみんな振り返ってくるレベルだったから結構気まずい。【逆転】スキルで出ないようにすればよかったが間に合わなかった……。
「……オルドよ、風邪か?」
「オルド様、大丈夫ですか?」
「……いや、体調はむしろいいくらいだ。ってことは……誰かが俺の噂でもしてたかな?」
名誉が回復したばかりだから俺の噂をしてるやつは結構いるかもしれないし、被追放者の村でも俺のことを話すやつはいるだろうし……きりがないな。あれだけ大きなくしゃみが出たのもわかる。
「ほぉーら、風邪をひかないようにマスクちまちょうねえー」
「バ、バブッ!?」
アレクがロクリアから顔面に布を押し付けられてる。あれじゃ風邪を通り越して死んでしまいそうだ。
「……オ、オルドどの、体調には気をつけて……」
「ですですっ。体は大事にしませんとぉ……」
「……」
エスティルとマゼッタから心配されて、俺は本当に具合が悪くなるかと思う。一体何考えてんだか、アレクの慰み者にまで堕ちたやつらが、その仇敵である俺の心配をするだと? 妙だな。よし、少し探りを入れてみるか……。
「あ……あぁ、心配してくれてありがとう。エスティル、マゼッタ……」
若干の戸惑いを乗せつつ礼を言ってみる。なんの濁りもない反応を見せるよりこっちのほうが自然だろう。
「グルルァ? オルドよ、こやつらを許そうというのか?」
「ウミュァアッ? 不幸の臭いがしますよ?」
「……はっ? 失礼なことを抜かすな。フェリルにクオンとやら、オルドどのの仲間でなければとっくに殴っているぞ……」
「ですねぇ、今のはわたくしもちょっと頭に来ましたぁ……」
「グルルァ……では殴ってみるがいい」
「ウミュァ……殴ってください」
「まあまあ、みんな落ち着けって……」
俺はそう言いつつ、フェリルとクオンに目配せした。
「「……」」
それで二人とも何か意図があると察したのかうなずいている。
実際その通りで、俺がこいつらを許したと思ったら大間違いだ。アレクとロクリアも含めてまだまだ生き地獄を見せてやるつもりだし、今はその入り口にすぎない。
フェリルとクオンは物足りないしじれったいだろうが、すぐ終わらせたら勿体ないし少しは調子に乗らせないと無抵抗のやつを殴るみたいで面白くもない。俺を騙せているんだと勝手に思わせておけばいいんだ。お前らのドス黒い腹の中を簡単に信用するはずもないが……。
「――しかし、王都内はどこも人だらけだな……」
例の広場だけでなく、入り組んでいる狭い路地のほうとか、そういう普段人気がないはずのところにまで往来する人々で溢れ、混雑しているのがパッと見てもわかる。
「グルルルァ……遠くだがモンスターの気配を感じるから、王都まで逃げてきているのであろうか」
「ウミュァア……でしょうね。スンスン……不幸の臭いがずっと先のほうで充満してます……」
「なるほどな。こっちは軍隊だけじゃなくて勇者パーティーもいるから尚更ってわけか」
以前は遥か遠方に狭間地帯が現れたわけで、ここまでごった返しになることはなかったんだよな。
「こっちには最強の賢者であるオルドどのがいるから、民も安心だな!」
「ですねぇ。最強の賢者様万歳ですぅ」
「いやぁ、照れる照れる……」
誉めてきたエスティルとマゼッタに対し、俺は背を向けて目の向きと視線を【逆転】してやつらの様子を覗き込むと、お互いに目線を合わせて口元を緩ませているのがわかった。
悪そうな笑みだしやはり何か企んでそうだな。まあそれくらい活きが良くないと面白くないから良い。何を考えてるのかは不明だが……。
「バブゥアッ!?」
「まあ、アレク様ったらあ……勇者様なのだからこの程度のダメージで凹んでいてはダメよ! ヒーリングッ!」
「バッ、バビバビバビバビバビッ、バビイィッ!」
「……」
まーたロクリアが笑みを浮かべつつアレクにビンタとヒーリングを繰り返してる。とどめは頭突きだった。
正直、精神がまともな相手じゃないと弄り甲斐はあまりないんだが、エスティルとマゼッタの狙いがわかるまではしばらく狂っていてもらうつもりだ。しかし唐突にビンタ攻勢が始まるもんだからアレクが可哀想に思えてしまうレベルだ。
――さあ、王都の出入り口である門が見えてきた。いよいよこれからだな。転送魔法で狭間地帯のあるバルドリア地方へ一気に飛ぶ手もあるが、俺たちは徒歩を選択した。
狭間から出てきたモンスターはこっちへ向けて逃げてくる民を狙うはずで、退治しながら行くほうがいいという結論に至ったんだ。それに、ゆっくり向かったほうが嫌がらせもできるしちょうどいいだろう。俺にとってもやつらにとっても……。
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