13.再会
どこを見渡しても人の波が絶えることはない。転送魔法で訪れた王都はとても賑わっていて、それまでいた集落とは対照的だった。
「グルルゥ、オルド……」
「ウミュァア、オルド様……」
フェリルとクオンが懐疑的な目で俺を見ているのがわかる。
「二人とも、どうした?」
「何故、そんな年老いた姿のままでここへ来たのかと……」
「折角若返ったのに……」
「あぁ、これにはちゃんと理由があるんだ」
俺は二人に向かって笑いかける。
「簡単に終わらせてしまったらつまらないからな。惨めな状況が何も変わってないと思わせて、なるべく調子に乗らせておかないといけない」
「「なるほど……」」
二人とも納得してくれた様子。
おそらく、勇者アレクはロクリアたちも連れてきていて、どこかで見物させようとしているはず。そう考えるとゾクゾクしてくる。
精々、今のうちに俺を鼻で笑うがいい。天国から地獄に落とすまでは気付かせてはいけない。少しずつ足場を削って、全てを知ったときにはそこから飛び降りる選択肢しかないようにしてやる。だから、気付かないうちに崖の上まで引っ張り込む必要があるんだ。
――来た。アレクだ。
「――よー、オルド。久々だなあ……」
「……ひ、久しぶり……」
広場の中央にある勇者像の脇は、待ち合わせの場所として有名なところだ。そのためか、やつは勇者であることがバレないように変装しているつもりらしく、一般人っぽい服装で前髪を下ろしていて誰なのかわからなくしている様子だったが、俺にとっては気配でバレバレだ。
「どうだ? 俺の見た目、しゃれてるだろう。ま、俺は英雄だからバレるとまずいしな。それに比べてお前はいいよなあ。オルドってバレたところで鼻で笑われるだけだし……」
「……確かに……」
俺がおどおどとした素振りをすると、アレクはにんまりと口元を歪めて心底愉快そうに笑った。
「……で、わざわざここまで呼び出したんだし、俺に何か言うことがあるんだろ?」
「……あ、ああ……」
やはりロクリアたちの気配も感じる。そう遠くない場所から俺たちの様子を見ているのは間違いない。もちろんそれには気付かない振りをする。とことん落ちぶれたって思わせないとな。
「謝罪が……必要だって、そう思ってね……」
「うんうん、とりあえず聞いてやるから早く言えよ」
「……き、き、緊張で……」
「……あ?」
怖い顔を近付けて威圧してくるアレク。あの日から随分と強気になったものだ。いつも俺に媚びを売っていた男が……。
「こっちはよ、わざわざこうして来てやってんだ。早く謝罪しろってんだよ」
「……み、耳打ちで……」
「あぁ!? てめえ、マジで舐めてんのか!? 大声で『アレク様ごめんなさい』って言えってんだよ!」
「……そ、それだと周りに勇者がいるってバレちゃうかもしれないから、耳元で……」
「……ちっ。わかったから早くしろ、気持ち悪ぃ……」
俺は苛立った表情のアレクの耳元に口を近付ける。
「アレク様……俺に謝罪してほしい……」
「……え?」
面白い。俺が耳打ちしたときのアレクの顔、凄く面白かった。やつはしばらくわけがわからなそうに呆然としたあと、ようやく状況が整理でき始めたのか顔を見る見る赤くしていった。
「……おい、オルド、てめー酔っ払ってんじゃねえだろうな……? それとも、現状があまりにも惨めだからって頭がイカれちまったのか……?」
「……あ、俺用事を思い出したから行かないと……」
「はっ!? てめえ殺されてえのか!?」
アレクが掴みかかってきたとき、俺は頂点に近いであろうやつの怒りを【逆転】させてやった。
「……あ、あれ……?」
「ん? どうしたの、アレク様。んじゃ俺行くから」
きょとんとした顔のアレクを置き去りにすると、物陰に隠れたあとでやつの怒りを元に戻してやる。
「……オ、オ、オルドオォォォォッ! どこだああぁぁぁっ!」
やつが狂ったように奇声を上げながら駆け回る様子を、俺は笑いを堪えながら見守っていた。まだまだ、ショーは始まったばかりだ……。
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