第320話

 人と人とが本当に信じあえた時に、起きる奇跡……それが本当の神衣なんだ。

魔術も魔法も神術も精神エネルギーを利用してると言われてたけどそれは大きい意味ではそうかも知れないけど実際は違う、それは人の思いを理解してくれるから起こせる現象。


 そこでようやくレオナの気持ちが伝わってきた。

そうか、レオナもクラスメイトを生き返らせようと騙されて利用された草薙雄哉と同じなんだ。

 家族を殺した相手がそれを隠してレオナに生き返らせて欲しければ僕を殺せと、城塞都市ハントのリッツホテルについてからずっと契約を持ちかけていた。

 しかもご丁寧に、思考誘導まで使って……レオナは抵抗してホテルから出てこなかっただけだったんだ。


 今なら分かる。

レオナの体を動かしてるのはレオナじゃなくて僕の中で救っていた精神の調停者だと言うことが。


「私をもう一度、戻してください!」

 私はようやく全てを理解した。私は私以外の何者でもない。

 弱くて、卑怯で、すぐに人を羨んで意地っ張りで見栄っ張りで、ボロボロな私。

 でも、そんな私でも居ても良いよと言ってくれる人がいる。

 だから私は、私と皆のために大事な人を守って戦う。

 たとえ、その先が自分自身の消滅であっても決して、私が関わってきた人やこれから関わる人を不幸にするやり方をする人達になんて負けたりはしないし諦めたりもしない。


「ようやく入り口に立ったようだな」

 声がした方を振り向くと、そこには博士と違うもう一人の草薙雄哉にアレルにリメイラールが立っていた。


「ふん、遅いぞ。どれだけクヨクヨしてれば気が済むんだ。さっさとあのエンハスとアルファとその上にいるエボを倒してこい。お前のために調整したループオブロッドが無駄になるだろう」

 未来の世界で会った草薙が不機嫌な顔をして私に語りかけてきた。


「ユウティーシアさん、ひさしぶりね。やっぱり私の血を引いてあるだけあって美人よね」


「ユウティーシアちゃん、草薙が調整したループオブロッドとエアリアルブレードがあれば世界を変える事も出来るけどそれをすれば、ユウティーシアちゃんは消滅するから出来れば使ってほしくないかな?」


「大丈夫です。草薙雄哉さん、リメイラールさん、アレクさん……本当にありがとうございました」

 3人が私を守るために神代時代の施設を管理しておいてくれたのは、心を通わせてようやく理解が出来た。彼らは私がユウティーシアとして生まれるずっと前から私のために行動してくれていたのだ。


 気が付けば3人の姿は消えていて教授と私だけがその場に残っていた。

 

「準備はいいか?」


 私は頷く。きっと元に戻っても神核を奪われた私は、魔力も無く身体能力も並以下だろう。

 絶対に足手まといになるかもしれない。

 でも私には唯一残った武器がある。

 それは私自身が音素だと言う武器、誰かと心を通わせる事で神衣を超える力を振るうことが出来る。

 それこそが私の私たる本当の意味であり力。


――――――だから、ここから始めよう。この世界に生まれてきて良かったと思える本当の冒険を。




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