第311話

「こんにちは、名前をつけてあげないといけないわね」

 彼女はそう呟くとしばらく考えこんでいた。


「そうね、あなたは創造主(アウラストウルス)が居たという証明をする存在ですもの。それにあやかって私もアナタを作ったのだから、アウラストウルスの証明と名づけましょう」

 彼女はそう呟くとこちらを見てきたが何を考えてるのかよく分からない。


「やっぱり知識が無いと何の反応も示さないのね。不便よね?」


 それから色々な人の知識と人生を見せられた。

特に見せられたのは草薙雄哉と言う男の人生だった。

彼は、大切な人を失ったと言う罪悪感から自分の存在を否定し続けて生きていた。

誰とも関わりを持とうともせず、関心をもたず、ただそこに在るだけの存在。

まるで同じだった。


「アウラストウルスの証明、あなたみたいな人ね?気になるの?」

 彼女が何を言ってるのか理解が出来ない。気になると言えば気になるかもしれない。

でも何故か彼からは懐かしい匂いがした。


「そうね、そろそろあなたにも役目を与えないとね?丁度いいわ、この男の知識を覚えなさい」

 彼女の言葉に従って草薙雄哉という人間の人生と知識を覚えることにした。彼は、自分を否定して生き続けて決して、人と交わろうとしない。人を信じない、自分すら信じない、大事にしない。大抵の生き物が持っている存在の肯定がない。

 それはとても僕と似ている。


「そろそろ出来たかしら?」

 彼女は話しかけてきた。僕は頷くように彼女の周りを飛び回った。


「今日から貴方は草薙雄哉分かったわね?あなたの仕事は私たちの世界を侵略してきた異星人が集めてる万能エネルギーを奪う事。そのためには手段は問わない。ただ、忘れないで!アナタは感情を持ったら存在できなくなる物質なのだから、決して人には過度に干渉しない事。いいわね?」

 彼女の言葉に僕は頷いた。だってそれは本当の事なのだから、僕が彼女に選ばれた理由は僕たち音素が持つ思考共有故だから。

 それはとても便利で他の生物に成りすます事が出来るから。

 でもそれは成りすますだけで決して生物には慣れない、だって生物には感情があるのだから。


「念のためにアナタには、精神の調停者をつけましょう。それでアナタを保護しましょう。もし失敗したら分かってるわね?」

 僕は彼女の言葉に分かったと伝える。

 彼女は満足そうに頷く。


「今からアナタを、地平線上の境界に飛ばすわ。そこで貴方は本来の草薙雄哉として生きるの。でも使命は忘れないで、アナタの使命は全ての祖の万能エネルギーたる神核とその副産物である神衣を得る事。この2つを手に入れたら、すぐに戻ってくる事」

 僕は頷く。僕はそのためだけに作られたのだからそれをするのは当たり前。


「基礎となった草薙雄哉の知識と人生から作られる人格データを見る限りでは問題ないと思うけど、何かあったら精神の調停者に神格の回収をさせるからそしたらアナタは無理せずに消えていいからね」

 僕は頷く。どっちにしても僕はそれでしかないから人でも無い生物でもないただの世界を構成する古い古い時代の生き残り音素だから。


そして、俺(僕)の前に彼がアルファがその姿を現した。



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