第195話
「――日本人?貴女はリースノット王国シュトロハイム家ユウティーシアでは?」
「……」
アリアが時間稼ぎと称して情報収集をしようとしてるのはバレバレだ。そんな問答に付き合うほど俺は甘くはないし余裕もない。ユウティーシア本来のなけなしの魔力を使い脚を強化する。
「――っ!?コルク、すぐにユウティーシアを抑えなさい!」
「はい!」
身体強化魔術で強化されたコルクが近づいてくるが俺にはその姿はスローモーションにしか見えない。もはや生物としての次元が違う。俺はミトコンドリアに命じて生成した体内の炭素を結合させた武器そうミトコンドリアアームズと名づけよう。
それを振るい俺を捕まえようとしたコルクの腕を両断した。
「!?」
「――コルク!」
二人は驚いているが、俺も驚いている。まさかこれほどの切れ味だとは思わない。ただ、今ではうれしい誤算だ。足の細胞変質はすでに終わっている。
「アリアとコルク、悪いな?俺は捕まるわけにはいかないんだ」
地面を蹴り二人から距離をとる間に体内の細胞が作り出したガスを噴出し加速しその場から離脱した。
――はぁはぁはぁ
俺の荒い息が通路に響き渡る。二人から離脱した後、数時間に渡り終わりのない廻廊を進んでいるがどこまでも果てが見えない。ユウティーシア自体の魔力はすでに尽きていて最後の魔力を使い両手両足は普通に戻してあるが一度、変質させた細胞までは完全に修復する事はできなかった。そして眼が霞むというよりも体中の細胞が崩れていく感じが肉体を苛む。
俺はそのまま壁に体を預けるとゆっくりと床に崩れ落ちる。
何故か知らないが外部の魔力がまったく使えない。
「これはやばいな……」
俺はそのまま意識を失いかけるところで壁が競りあがって空洞が出来た。
そこは衛星都市エルノのダンジョンで見かけたエレベーターであった。俺は力が入らない体を無理やり動かしエレベータの中へ入り地下へのボタンを押す。一瞬の浮遊感の後にエレベーターは下降しはじめる。
霞む視界の中、永延とも思われる時間を待ち続ける。そしてエレベーターを抜けるとそこにはコボルト達に案内された場所と同じ光景が存在した。高く作られた天蓋に瞬く星に数百にも及ぶ高層ビル群。まるでそこは新宿のようであった。
俺は、コボルトの村が作られていた場所との差に驚き立ち尽くしていると何かが近づいてくる事に気がついた。音からして人じゃない。
「人間を発見、人間を発見。すぐに保護いたします」
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