第164話

体の震えが止まらない。少しでも自分の力で何とかできるかも知れないと思っていたが俺が間違ってた。

人間じゃあれには対抗できない。戦ってるコボルト達にそのことを告げる?こっちに注意を向けさせるようなものだ。


俺は震える手でレオナの腕を取った。


「クサナギ殿?」


「無理です、あれとは戦ってはいけません。コボルトさん達が足止めしてくれてる間に逃げましょう」


レオナは俺を言葉を聞きながらもその場から動こうとしない。


「クサナギ殿は、冒険者ギルドと総督府にこの事を伝えてください、すぐに騎士団を派遣するように依頼してください、殿は某がしますゆえ」


「だめです!あれは何とか出来るモノではありません、あれは災害なんです。ですから逃げましょう」


どうして勝ち目の無い事に首を突っ込もうとする?勝算の無い戦いに首を突っ込むなんて愚者のする事だ。理解できない、理解できない。あんなステータスを持った化け物相手に大したステータスも持ってない者が集まってどうなる?まったく理解が出来ない。


「クサナギ殿は、まだ幼いから分からないかも知れません、ですが私が殿になることで時間が稼ぐことができるのならそれは騎士の性分を全うしたことになるのではないですか?クサナギ殿のする事は王家の冒険者プレートを持って衛星都市エルノに危険だと言う事実を伝える事こそがクサナギ殿の仕事でないのですか?」


俺は、レオナの言葉に首を振る。あの化け物のステータスならどれだけ騎士を集めても勝てるわけがない。町だって守りきれるわけがない。きっとすぐに全滅する。皆殺しにあう。


「別に他人なんてどうでもいいじゃないですか!まずは自分が助かることを優先にしないと!!」


「クサナギ殿、騎士は誰かを守るための職業です。国民を民を守るためのものです。自分に言い訳をして逃げるなど騎士ではありません」


レオナと俺が押し問答してる間に一人の白い毛並みをした子犬が俺の方へ飛んできた。名前はたしか、レジェンドだったはず。


「お姉ちゃん。早く逃げて……」


よく見ると体中血まみれで白い部分は背中の毛並みだけだった。両腕が吹き飛ばされたときに折られたのだろう。あらぬ方向へ曲がっている。


「ヒール」


俺は回復魔法をかけるが回復しない。どうして回復しない?どうして?


「無理だよ、お姉ちゃん。僕たちの体は人とは違うから……」


「だったら逃げないと!」


「長老様からお姉ちゃんを逃がすまでの時間稼ぎをしろって言われてるから……それに皆、お姉ちゃんが懐かしいんだ」


「――!?」


つまり、この周辺に倒れてるコボルト達は俺を逃がすために犠牲になったってことか?ふざけるな!誰かを手助けするのはいい。それがただ相手に与えるだけだからだ。だが、俺は誰かに何かをして貰いたいとは思わない。そこには何かしらの貸し借りが発生するからだ。利害を求めない関係性なんて絶対に存在しない。そんなのはごめんこうむる。

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