第二章

第78話

ミランダが作ってくれた夕食を食べた後、草薙雄哉(くさなぎゆうや)は薄暗い部屋の中で一人ベットの上に座っていた。


草薙は、ミランダが言っていた自分が本当に見えてるの?と言う言葉を考えていた。

否、考えるふりをしていた。

そして自嘲気味に目を閉じて微笑む。

口角だけがわずかにゆがむ微笑み。


それは誰にも見せない草薙が一人だけの時にのみ見せる微笑み。


「ああ、本当は分かってたさ」


ひさしぶりに男言葉が彼の口から出る。

誰もが彼に彼女としての役割を与える。

だから彼はそのように振る舞う。

何故ならその方がずっと簡単だから。


「言われなくても分かってるさ」


そう、言われなくても分かってる。

何十年、このような生き方をしてきたと思ってるんだ?と草薙は自嘲する。


「同情なんていらない、押し付けもいらない、変わりたいとも思わない」


どれだけの時間、彼は自問自答して生きてきたと思ってる?


長い長い時間、どれだけ考えてきたと思ってる?


そして答え何て出なかった。


だから彼は考える事を辞めた。


めんどくさい。


考えなければいい。


人が望むように人が求めるように舞えばいい。


そしてダメになるなら捨てればいい。


そうやってずっと生きてきたのだから……。


他人に今更、気を使われても困るだけだ。


草薙はベッドから立ち上がると、いまだに着替えていないワンピースから小石を取り出した。

逃げる時に相手の牽制にでも使えればいいかと、つねに何個かの小石を服のポケットに忍ばせてあるのだ。



草薙は先ほど部屋に入ってから読んだ魔法書から自分が作り出してた物こそ迷宮から取れる魔法石だと理解した。


「そりゃ両親も俺が嫌いでも、手放すことをしないわけだ。


それに魔力量を測った時に1000万と表示されたのもそれを後押ししたはずだ。


きっと俺がまったく魔力量が無いと言う事にしていたのも俺と言うジョーカーを切り札として持っていたかったんだな」


草薙が手に力を込めると、黄色、緑、オレンジ、黄色、赤と順々に色が変わっていき最後には白く輝く石に変化した。

部屋内に置いてあった紙に羽ペンで、文字を書いていく。


―ユークリッドとミランダさんでこの石を売ってお金にして折半してください―


―迷惑をかけたお詫びですので気にしないでください。―


書き終わると、手紙と生成した白い石をベットの上に置く。


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