第66話

「おい、スレイン」


「ああ。こいつは……」


俺とスレインは腰に差していた警備隊に配られる制圧武器である鋳造で作られた警剣を抜いて構えた。


長さは普通の剣と同じだが、刃の部分は潰されているため殺傷力は極めて低い。

それでも当たり所が悪ければ怪我をするかもしれないし死ぬかも知れないがそれは今は置いておく。


まだ日が落ちる前だと言うのに裏通りにはまったく人の気配がなかった。

いつもはそこそこ人通りがあると言うのに……。


「そこにいる奴出てこい!」


スレインが緊迫した声色で建物の物陰に向けて叫んだ。

俺は気が付かなかったがどうやらスレインお得意のサーチの魔法なのだろう。


スレインと俺が動かないのを見るや黒い服装をした男が物陰から姿を現した。

そして俺とスレインは、その男の胸につけていたエンブレムを見て息を呑んだ。


「なるほどなるほど、どうやら最近のリースノット王国の兵の質は、以前と違ってずいぶんと上がっているようですね」


男は俺とスレインを観察しながら語ってくるが俺達としてはそれどころではない。


「どういう事だ?なんでここにヴァルキリアスの一角獣がいるんだ?答えろ!」


俺はいつでも男を制圧できるように警備隊から支給された警剣に魔力を通していく。通された魔力は警剣内で循環し強化された後、俺の体内に戻る。

これは最近、王都警備隊で採用された戦う方法だ。良質な魔石が安定供給されるようになった事で他国でも採用されていた戦闘方式が採用になったのだ。

これは少ない魔力量で、身体能力を効率よく数倍引き上げることが出来る。視界の端でスレインの体も薄っすらと白く光り始めた事を俺は見てとった。スレインも俺と同じで魔力循環法を使った戦闘術、循環魔闘術を発動させたようだ。


「私は貴方達とは戦う気はないのですよ?どちらかと言えば、力を貸してほしいのです。そう……我らがアリス皇女殿下が思いを寄せるリースノット王国第一王子を救う為に力を貸してほしいのです」


俺とスレインはこの男は何を言い出したのかと思った。


「どういうことだ?救うためとは?何故、俺達にその話をする?」


王子を救うなら彼らの主から直接、言って貰えばいいはずだ。それなのに、何故俺達に直接接触してくる?


「シュトロハイム家と言えば分かりますか?」


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