第36話

先ほどまで、「エール一杯おかわりー」とか「やべー今月金欠だわー」とか「聞いてくれよ!女房がほかの男とさ浮気してたんだよおおおおお」とかあまり公衆の面前では語ったらいけない内容までちょっといブラックな内容の話しで盛り上がっていた場は、水を打ったかのように停止して静まり返っている。


「鍛え方が足りないんじゃないのか?」


絶世の美少女と言っても過言ではない少女と一緒に入ってきた男は

特に気にしたそぶりもなく店内入ってくる。

男達は、美少女よりも後ろに続いて入ってきた男に目線を向けていた。

お世辞にもその目線は良いとは言えなかった。


なんかこう嫉妬的な何かを含んだこいつ死ねばいいのに!という意味合いを含んだ視線であった。


ユークリッドはその視線に気がついたのか、ユウティーシアの肩に手を置いた。

そのため、店内に入ろうとしたユウティーシアは歩みを止めさせられた。


ユウティーシアはどうしたんだろう?と後ろを振り返り顔を上げた。

ユークリッドは、ユウティーシアの顔を見てから頭を左右に振った。

その仕草とユークリッドの目はこう言っていた。


「俺の命がやばくなるからカフェでも行こう」と……。


女性が多いカフェなら嫉妬に駆られる事はないだろう。

あっても少ないはず。

こんな風に殺意まで含んだ視線は向けられないはずだ。


「ユークリッドどうしたの?早く入りましょう?私、疲れたわ。少し休みたいの」


ただユークリッドの切実な思いは、ユウティーシアには届かなかった。

シュトロハイム公爵邸から出た事がなく、長時間歩いた事がないユウティーシアの体はすでに限界を超えていたのだ。

3時間市場を回って情報収集をしてきた代償は、疲労で足が震えていることであった。


「はやく、椅子に座って休みたいの。だから早く入りましょう」


ユウティーシアは美しく整えられた眉をすこし潜めながらもう一度、ユークリッドに語りかけるとユークリッドの大きな手を小さな両手で握り店内に引っ張ろうとする。


「はやく入らないと駄目、もう我慢できないの!」


二人の掛け合いを見ていた女性の店員達は、妙にエロイ会話をしてるとドキドキして見る。


二人の掛け合いを見ていた客の男達は、何見せ付けてくれてるんじゃオラーと歯軋りをしながら殺意を込めた視線でユークリッドを見た。

見られたユークリッドは身の危険からドキドキして店内とユウティーシアを見る。


ユークリッドは店を変えたいと身振りで伝えたのに察してくれないユウティーシアに内心、ため息をついた。でも疲れきって思考力が低下していたユウティーシアにそこまでの余裕はなかった。

察する気持ち?何それおいしいの?状態である。

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