第35話 崩我

 意識は遠く、体が重い。

 戦場へとつながる巨大な扉のスイッチを、倒れ込む様にして肩で押す。

 意味不明な吐き気。

 身体の輪郭が無くなったみたいだ。

 藤崎を呼ぶ隊長の声が、どこかに聞こえた。

 

 大丈夫ですよ、隊長。

 僕が、やりますから。

 あなたにはできなくても。

 僕なら、上手くやれますから。

 だって、僕は――。

 

 笑う。

 

「――あなたの事が、大嫌いですから」

 

 顔を上げると、青い空と白い戦場が目の前に広がっていた。

  

 驚いたような老狼の顔が見える。

 祈るように。遥か遠い最前線を見つめるだけの、無力な戦士。


 さあ、行こうか。          ヤア、トモヨ

     与えてやる。     ミテクレ

   コレガ          くれてやる。       アタラシイ     望み通りの、戦場を。      オウノ

 叶えてやる。       スガタダ         この僕が。    だカラ。

 

「……チカラを、カせ……」

 

 力無く扉に寄り掛かかっていた少年が亀裂の様な笑みを浮かべた瞬間。

 その身体から放たれた幾筋もの細い糸が、第一小隊の面々の頭蓋を貫いていた。

 

 

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