呂勢愁子

 少し、前の話だ。

「いやその身長で肩がネット越えてくるのはもはやバッタでしょ」

「バッタ!? ゴリラより酷くない!?」


 体育館の片隅。練習試合で仲良くなった他校の生徒と二人、向かい合ってけたけたと笑い、罵声にしか聞こえない悪口を互いにぶつけ合う。

 まるで数年来の親友のように。

 実際は、ついさっき会ったばかりだというのに。



 中学時代の話。懐かしい思い出。それは遠くて、でも心に刺さったままになってしまった記憶。

 これは脱げない靴の中の小石。

 アタシにとってはそうじゃなくて、歩いていたらつまづいてしまった小石に過ぎないのだけれど。

 アタシにとっての小石よりも、アイツにとっての小石のほうが、とてもとても存在感が大きかったみたいで。


 バカだと思ってたら、本当にバカだった。


「似たようなものでしょ。だいたいアンタ、フィジカルバカなんだから、悩むだけムダ」

「ひっどいなぁ」

 否定はしないのか、と思いつつペットボトルをあおる。声はワックスの効いた木板に染み込み、高い天井を反射してかなり響く。体育館全域に聞こえるであろう大声でしゃべる彼女は、とても快活で、眩しくて、力強く、そしてなにより目立つ。

 そんなこともおかまいなしに、アタシたちは喋り通しだ。


「そだ、ロセってどこの人なの? なんかかっこいい響きだよね」

 もしかしてこいつはバカなのか。



 練習試合の時の話だ。

 相手チームのアウトサイドヒッターと、少し仲良くなった。


 同じポジションだから、というのもあった。

 でも、スタイルが真逆だからこそ、相手のことを知りたくなった。

 そして恐らく、本音は……憧れ。認めたくないけれど。


「呂勢。ろ・せ・い。日本人よ、れっきとした」

 半眼になってにらみつけるふりをすると、相手チームアウトサイドヒッター兼バカの卯野風香は驚いた顔をした。まるでひょっとこみたいで、少し滑稽。それにしても愛嬌のある顔で、綺麗や可愛いといった表現は適切ではない。


「テクニックなんてあったもんじゃない。もっと考えて打ちなよ。高校じゃ通じないかもよ?」

 うげ、と変な声を出したそいつは頬を軽く掻いて、頑張ってみる、とはにかんだ。


 お互いに顔立ちは整っているとは言い難く、けれど崩れているわけでもない凡とした形という印象だった。

 けれど、笑ったそいつは奇妙な人懐こさがあって、なるほど魅力というのはこういうのもあるのか、と思わされた。するりとこちらの心に近づいてきて、いつの間にか掴まれている。そういう類いの笑顔や困り顔、たくさんの表情。


「頑張ってはみるけど、なんかコツとかない?」

「フェイント……とまでは行かないけど、素直過ぎる弾道も考えもんよ。ビビってくれるのは真剣じゃない相手だけ」

 釘を差してみても、

「でもさー、ロセは本気っしょー」

 それはそうだ。


 それはそうなのだが。

 速すぎて、弾速に追いつかない。思考が追いついた瞬間にこのバカのバカみたいな速度に追い抜かされる。

 歯がゆい。悔しい。上手い下手の領域を越えた、天性のフィジカルモンスター。


 それでも、強いやつがさらなる高みに登ることに素晴らしさに比べたら、アタシのちっぽけな嫉妬なんてどうでもいい。


「上級生に色々手練手管を教えてもらいなよ。めちゃくちゃ強い素直なストレートの中に、ちょっと小技を混ぜるだけで相手は混乱するもんよ」

 そうかーと唸る卯野を見ながら、その小技だけで戦っているアタシ自身を省みる。

 限界はいつかくる。まだ来ていないだけ。



 休憩終了を告げる笛の音が鳴る。

 じゃあ、とお互い片手を挙げて。

 触れるか触れないかの位置で、それぞれのチームに別れた。

 否、戻った。


 そのあとだ。

 アタシの顔面に、そいつの球が直撃したのは。

 スポーツに怪我は付き物。けど、そいつの常軌を逸したバカ力で放たれた弾丸は、人間の眼底を砕いた。


 まだ成長しきっていない中学生の頭蓋とはいえ、それなりに分厚い箇所だ。

 普通なら有り得ない。

 ましてやその弾を放ったのは女子中学生。まだまだ成長期の子供だ。


 病院で目を覚ました時に、スパイク一発で壊されたと聞いて笑ってしまい、ずいぶん痛い思いをした。

 だって無茶苦茶だろう、顔面レシーブで骨折なんて。

 笑うしかない。


 だから、まぁ、いいだろう。

 アイツなら、これだけ強い球を打てるアイツなら、大抵の学校には負けないだろう。

 だから、まぁ、いいだろう。頑張って来いよ。


 そう思っていたのに。

 そいつの通っていた学校は、地区大会で敗れていた。

 エースが球を打てない。そんなバカな理由で。


 つくづく、バカだった。どっちも。



 お互い近くの高校に進学した。

 アイツもアタシもバカなので、バレーをそのまま続けた。

 で、やっぱり二人ともバカなので、

「あれ」

「あー」

 なんてアホ面さげて、新入部員歓迎会に出て。そこでようやく確認した。


 アイツのバカらしさを。



 卯野、とそつなくトスを上げる部長。ネット越しでも解るほど混乱したまま跳躍するバカ。

 飛ぶのも早すぎるし、そもそもネットに突っ込んでどうする。

 ソイツはそのまま網に絡まって落下して。ボールはあとからソイツの頭に直撃した。


 二年にもなってこれだ。元々明るい気質でムードメーカーを担っているから、呆れられることはあっても罵倒されるようなヤツじゃない。

 それに、アイツは球を打とうとせず、拾ったり上げたりするのは問題なかった。

 特筆して上手いわけじゃない。ただ、高校生離れしたスタミナと肺活量から来る走力と気合で全部こなしている。


 夕暮れの中、飛ばずに走るアウトサイドヒッター。

 そんなアイツを尻目に、アタシは順調に技術を積み重ねていった。そして二年になってから、当然の如くレギュラー入りした。

 なのに、アイツは。

 今日もネットに突撃している。


「おはよ」

「はよー」

 気の抜けた挨拶。隣の席に座った卯野バカは、目の下にクマを作っている。


「寝不足?」

「んー。まぁ、色々」

 ふうん、と隣の席に座る。色々と言われても全く想像できない。そもそもコイツがバレー以外のことをしている姿が頭に浮かんでこない。授業は受けているが、その時はこっちもノートと黒板と禿げ頭しか見てない。


「昨日さぁ」

「ん? んー」

 ぼんやりと虚空を見つめるバカを睨む。


「部室の鍵、掛け忘れたでしょ」

「え、嘘。掛けたよ! 多分。多分……いや、城島一緒だったから掛けた!」

 立ち上がるなよ。うっとうしいでしょ。しかも根拠は後輩か。


「ウソだよ。見に行ってない。アンタまだ居残り練やってんの」

「んだよー、嘘かー。びっくりした」

 すとん、と座るバカ。思いのほか元気。心配して損した気持ちになる。

 幸い教師の禿頭はこちらではなく黒板に目を向けていた。


「朝っぱらから部室行く理由ないでしょ」

「忘れ物とか……しない?」

「しない」

 にべもなく切り捨てる。そもそも気付いた時点で部室にとんぼ返りすればいい。朝行く理由にはならない。


 それにしても、

「眠そうねぇ。休み時間寝たら?」

「そうするー。起こしてー」

 はいはい、と適当に返事をして、そのまますやりと眠り込んだバカを呆れ顔で見つめた。



 夕暮れ時は少し冷えるが、短いスカートは女子高生の挟持だ。これを譲るわけにはいかない。譲れないものがあるとしたらなんだと問われたら、多分その一つにこれが入るだろう。

 なんて、どうでもいいことを考えながら体育館の横を通り過ぎる。過ぎようとした。


 先日風邪で休んだときに出た数学の課題が未提出だと突然言われ、居残りさせられこのザマだ。頭の回転も早いほうじゃないから部活にも出れなかった。

 誰よりも練習量が必要で、今はまだ何よりも優先していたいバレーなのに。


 拗ねて歩いてみても傾いていく太陽に変わりはなく、次第に夜へ闇へと代わって行く。

 その時だ。

 体育館の横を通り過ぎようとした、まさにその時。校門までのショートカットの真っ最中に、その音は響く。


 中学時代、嫉妬と羨望で見つめ、見逃し、地面に着弾してからそれが渾身のスパイクだったと認識させられる、化け物じみた速度の弾丸。

 天性の肉体からのみ発せられる強大な破裂音が、体育館だけでなく外まで響いている。


(え?)

 困惑する。

 脅威の音。彼女だけの特権。卯野風香が迷いのなく振り抜いた右腕のみが発する爆発音。

 アタシの骨を破壊して、彼女が振り抜けなくなってから、ついぞ聞くことのなかった音。

 それが今、響いた。


 咄嗟に何故か隠れる。隠れ、その後姿を覗き見る。

 間違いなく、卯野風香だ。アタシが嫉妬し、憧れたスパイクがそこに再び着弾した。

 眼を見張る。

 違う。

 今のは、左手だった。


 利き手が右の卯野風香は、左手でも同じことをしてのけた。しかも、白線上のコートギリギリの位置に。

 きっと、右手ならもっと精度も速度も高いだろう。一撃目の音は恐らく右。


(どうして?)


 マネージャーと二人で居残り練習らしい。つまり、昼間言っていたアレだ。


 続いて、ほぼネットギリギリの真下に向けてあの速度の弾丸が叩き込まれる。高校レベルの人類では反応すら危うい、できたとしてあれを拾いに行ける根性があればプロでやっていけるであろう、そんな一撃。


 最後は、物凄い速度で途中まで振り抜かれたと思ったら、優しく触れるだけのフェイント。誰もが予測しえない緩やかさでそれはコートのきわにふわりと落ちた。


(なんで?)

 疑問と同時に、怒りが湧く。

 当たり前だ。

 練習のときに見せないなんて。あれができる人材がいるなら、アタシなんてレギュラー入りできる余地はどこにもないのに。


 どうして、強いやつが強いことを見せつけない?


 理由はすぐに解った。

 マネージャーと話す彼女の声色は優しく、力が抜けている。練習の時とは大違いで、穏やかに、おおらかに、のびのびと振り抜いている。


 あぁ、あいつはまだバカのままなのか。

 まだ、ずっと、今でも、引きずっているのか。


 迷う。

 今から口を出しに行って、あのバカのケツを叩いて、いいから全力を出せと発破を掛けて、そんなことをアタシがしていいのか。

 あいつからレギュラーを、本気を奪ってしまったアタシが。


 迷う。

 だから、気付かなかった。


 ぽすんと肩を叩かれ、びくりと身体を震わせる。

「あ、生徒会長……?」

 なんでこの人がこんなところに?

 疑問を口に出す前に答えが帰ってきた。

「友達だからさ。大丈夫大丈夫、卯野ちゃんとあなたの関係は知ってるよ。だからさ、ちょっと付き合ってよ。駅まで。奢るからさ」


 何が何やら解らないまま、アタシは訳知り顔の生徒会長に連行されていく。

 どうせ駅には行くんだ。理由は判らないままだけど、今アタシが卯野に声をかけるよりは良いのかもしれない。

 少なくとも、この小さな生徒会長はそう考えたのだろう。


「ちょっとさ」

 駅前の小さなカフェでお茶。女子高生二人。夕暮れ時。怪しまれる理由は何一つないけれど、アタシは気もそぞろだ。

 初めて会話する相手で、上級生で、うちの学校では有名人だ。

 思いの外ミーハーなんだな、アタシ。


「お願いがあって」

 切り出した会長。前置き無し。タイムラグ無し。多分、こういう人なんだ。この人、こういう人なんだ。

「お願い、ですか」


 小さめサイズの紙コップを両手に持って、ふーふーと息を吹きかけ冷ます彼女を見ていると、とても年上には見えない。卯野の『なんとなく憎めない』タイプの魅力ではない。

 明確に『美しい』顔立ちと所作。そんな人が、上目遣いでこちらに『お願い』ときたもんだ。

 当然身構える。


「いや大したことじゃないんだけど、卯野ちゃん今ちょっと大変でさ」

「大変? 家庭が、とかですか?」

 いや、それにしては普通に学校に来ている。思い当たる節は特に無い……わけでもない。そういえば最近やたら疲れた顔をしている。

「んー。まぁ、プライバシーに関わる問題だから。言わない方が良いってあたしは判断してる。図々しいのは承知の上でお願いがあるの」


「……どんなお願いなんですか?」

 歯切れの悪い言葉。なんだろう。図々しいというのも確かにそうだ。情報を伏せたままのお願いなんて、普通は飲めない。

 けど、負い目がある。アタシには、アタシが勝手に卯野風香に対して責任があると思っている。

 だから、

「内容によりますけど……大抵のことなら頷くと思います」


 だから教えてほしい、と生徒会長に先を促す。


「ありがとう。卯野ちゃんと、今まで通り普通に接してあげてほしいの」

「は?」

 思わず怒りが漏れた。


「なんですかそれ。当たり前じゃないですか」

「ほら、最近なーんか疲れてない?」

「卯野が、ですよね?」

「そう」

「それは、確かにそう見えますけど」

「だけどね、普通に接してほしいの」


 首を突っ込むな、という意味だ。

 怒りを通り越して不可解だ。

「それは、」

「卯野ちゃん、なんだかんだで真面目なのに要領悪いから。だから、普段どおりにしてくれる人がいるってそれだけで救われると思うの」


 なんだそれ。どうして……あぁ、そうか。

「居残りのときにやってること、練習の時にもやってみろって焚き付けんな……ってことですか」

「うん。色々いっぱいいっぱいになっちゃってるから、自分の中で整理付けさせてあげたいなーって老婆心があるのだよ。友達としてね」

 ライバルとしては複雑だろうけどね、と釘を刺される。くそ、全部お見通しか。腹が立つ。


「それで。それであいつは、あのバカは、もう一回振り抜けるようになるんですか?」

「あたし、断言はしない主義だよ」

 ふざけているのか。交わす視線は互いに真剣だ。

 少し冷めた紅茶に口をつける生徒会長。アタシは忘れられていたコーヒーを一口飲む。


「虫が良すぎませんか」

 交渉ですらない。

「『卯野風香』の復活を誰より望んでるあなたを見込んでのお願い。普通に、友達として、クラスメイトとして、チームメイトとして、ごくごく普通に接してあげてほしいの」

 脅迫だ。

 やり口が汚い。効果は──


「……判りました」

 抜群だ──

 当たり前だ。あの実力を発揮できないなんて、それこそうちの学校だけの損じゃない。


「それにね、あの子、多分大丈夫。ときちゃん……城島が付いてるから」

 変なことを言い出す。城島。うちのマネージャー。彼女とも知り合いなのか。


 難しい顔をしていたのだろう、頷きあぐねていたアタシを、生徒会長は優しい声で包んだ。

「チームメイト、頼れない?」

「ん……そういう、わけでは」

「なら、お願い」

 三度。お願い。あぁくそ。ムカつく。


「判りました。疲れてる理由については深入りしません」

 そういうと、向かい合った彼女は口の端をにやりと吊り上げ、

「うん。ありがとう。じゃあ、わたしはこれで」

 そういって千円札を三枚と、湯気だけが残ったコップを置いて、彼女は走って出ていった。


 有無を言わせないなら、こっちにだってやれることがある。そりゃ、約束は守る。当然だ。だけど。



 後日。

 段々遠のく夕暮れの時間。まだ空は青いのに、部活時間終了のチャイムが鳴る。名残惜しいと思うか、ようやく終わったと思うか、それは人それぞれで、アタシは当然前者だった。

 卯野風香は……今日もぼんやりしていた。


 大会も近くなって、レギュラー以外はコートでの練習もほとんどない。卯野は今日は一度もボールに触っていない。基礎体力づくりだけ。ぼうっとしていたのか、学校の外周を二周ほど多く走っていたようだが。

 あいつ、まだバカなのか。


「お疲れさまでしたー」

「お先に失礼しますー」

 口々にレギュラーが帰っていくなか、アタシは片付け……非レギュラー組と一緒に作業している。


 もちろん、生徒会長にムカついたからだ。


「あれ、しゅーこ、まだ帰ってなかったの?」

 卯野は開口一番、ぼけっとしたことを口走った。

「ちょっとあんたに話があって」

「話」

 ぽかんと口を開けてオウム返しするバカを尻目に、片付けを続ける。


 がらがらとボールケースを引きずって体育倉庫に押しやる。独特の汗臭さと埃っぽさが最悪の気分にさせてくれる。

 がらがらと扉を締める。鍵は持っている。外から閉められる心配は無い。

 ただ、二人きりになりたかった。


「ぉぁ、な、なに?」

「あんた、まだあのスパイク撃てないの?」

 直球で切り込む。ムカついてるから、バレーのように手練手管や小技は使わない。使えない。頭に血が上っている実感がある。

 でも、一度切った堰は、感情に押し流されてしまう。


 あぁ、くそ。


「え、あー。うん。うーん? まだ……人に向けては怖くてさ」

 まるで人以外には叩き込んだ、みたいな言い草。居残り練習のことだろう。あれは見なかったことにしておく。だって、試合で使えない技術は無意味だ。


「こっちは気にしてないっての。いい? スポーツ選手に事故とケガはつきもの。たまたまアンタがゴリラだっただけでしょ」

「……それは、うん」

 我ながら女の子に向かってゴリラなんて言い草、酷いとは思うが端的な事実だ。


「アタシは、アンタの、あの無茶苦茶な位置から飛ばしてきて体育館の床凹ませるスパイクより、強い球を撃たなきゃいけないの。レギュラーだから。わかる?」

 頷く卯野。

 無理だ。あれより強い球なんて撃てない。打つ、ではない。もはや撃つ、の領域にある。アタシには未来永劫不可能だ。けど、今は。


「ビビって足踏みするのは勝手。でも、それ張り合い無いから。だから、コートに立ちたいなら、ちゃんとしろ」

「しゅーこは厳しいなぁ」

「なんで笑ってんのバカ」

 にへら、と卯野の愛嬌のある表情にほだされそうになる。


 いや、もうほだされてるのか?


「ん、あんがと。練習こんくらいにしとく。必要なの、そっちじゃなさそうだし」

「あっそ」

 多分、いや間違いなく、卯野はアタシのことがトラウマになってて。

 それはアタシにとってもムカつくことで。

 お願いだから、全力を出してほしくて。


 だからきっと、いつの日か必ず、全力で振り抜いてくれることを信じていて。


「そうだ、なんか食って帰らない?」

 ナイスアイデア、とばかりに手を鳴らす卯野。埃が舞うからやめろ。

「はぁ? 太るでしょ」

 これでも女子高生なんだぞこっちは。


「いや運動したから平気だって」

「誰しもお前みたいなゴリラじゃないんだ」

 それは嫉妬と羨望と、それで憧れの入り混じった複雑な言葉。


「いいじゃん、城島にクレープ屋教えてもらったから行こうぜー」

「く……わかった。今日だけな」

「試合後の打ち上げとかにもさ」

「ま、まぁ……たまになら……」

「よし、決まり決まり!」


 あっけらかんと笑う卯野を見て、アタシはなんとなく悟った。

 来年のレギュラーにアタシは、きっといられない。

 多分もう、どこかで振り抜いているんだろう、こいつは。

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