無かったことにしたい日 ⑥-3-3
◇◇◇◇リンダ視点◇◇◇◇◇◇
あれから行軍すること数日。
おかしい。
この辺りにオークの城があったはずなのだが。
「姫様。辺りを捜索いたしましたが建物らしき物は見つけられませんでした」
私は強行軍でオークの元まで急いだ。だというのにどうしたことか、確かにこの場にあったはずの建物がきれいさっぱりなくなっていた。
――いったい何があったというの。
ヴァルマス家の強襲により王都は戦場と化した。我々はどさくさに紛れて森へ逃れたが、うまく誤魔化せているのか敵の追手は今のところ見かけていない。
ここまではうまくいったといえる。
だがここにきてこのアクシデント。
予定が大幅に狂った。このままでは我々に先はない。ここでまごまごしていてはそのうち追手に見つかり討たれてしまうだろう。敵がこちらの足取りを追ってくるのも時間の問題だ。
私は頭を抱える。そうしてふと、自分の心の声に閃くものを感じた。
――足取り?
では敵はどうやって私たちを追跡するだろう。普通に考えれば斥候たちは道を調べる。つまり地面に残している馬の足跡や馬車の車輪跡を見つけ追跡するのだ。
だとするなら、と、私は手掛かりに思い至る。
「くまなく地面を探すのよ! この跡を!」
私はオークの馬車の特殊な形をした車輪の跡を見つけ、それを皆に探させた。この跡の伸びた先にあの男はいるはずだ。
「姫様! 東に延びる同じ跡を発見致しました!」
「よくやってくれました。レンジャー経験のある下男にこの跡がどこへ続いているか探索するよう命じてください。くれぐれもモンスターには気を付けるようにとも。全員出立の準備を! この跡を追います!」
この地で何が起こったのかはわからない。建物が跡形もなく消し去られているのは奇怪だが、それは今の私たちが知りうるべき問題ではない。この場にオークがいない、それだけが重要だ。
オークが移動したならば私たちはただそれを追うのみ。ワケは会って聞けばいい。下手な考えは時間の無駄。早く移動しなければ。
「待ってなさい、オーク」
以前は私一人で何もできなかったが、およそ三百の手勢がいる今なら大抵のことはなんとかできる。少なくとも前と同じ醜態をさらすことは無い。
だから私はこう考える。もしオークが何かしらの困りごとでここを去ったというなら、今度はこちらが手を差し伸べて恩を売ることもできるかもしれないと。そうなればより対等な条件で交渉も行えるだろうと。
あのオークの力は利用したい。父上が今どうなっているかはわからないが、ヴァルマス家を退けるにはどうしたってあの豚の力は必要だ。
――せめて友好関係を構築し、一時的にでも我々を庇護してもらわなければ。
私のような美少女が自ら足を運んできてやっているのだ。アレもオスならうれしく思うに決まっている。もし仮に豚の側仕えの女騎士がフェイクで、私が最初に推理した通りあの禿げ散らかした豚がホモであったとしても、見目の良い男どもを下男として連れてきている。
お父様には豚がホモである可能性を言わなかったため部下を女騎士編成にされてしまったが、私はそこを下男でカバーした。我ながらファインプレーだったと思う。
まぁホモでもノンケでもどちらでもいい。あの豚の好みをあてがって奴が所有する古代魔道具なりなんなりの価値あるものも貢がせてやるのだ。
「この先は魔狼が出る可能性があります! 全員警戒しつつ進軍を!」
私は半ば勝利を確信しつつも隊の移動を急がせた。
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