冒険の日 ⑤-1-3
――まぁ全人間族の名誉とかそういう仰々しい建前とかじゃなく、個人的にも奪還には協力してあげたいと思わなくはないんだけど――
ただ、私は一点、ちょっと無視できない引っ掛かりを覚えていたりもする。
――それってほんとに人間だったのかな。コイツ、俺を見て人間かオークか判断できない様子だったし、いまいち信ぴょう性がなぁ。
ドラゴンが首から下げているアイテムなんていったら絶対お宝だろうから、命を懸ける価値があると思っちゃう馬鹿な人間も出てきちゃったりするのかもしれないけれど、それでも心身ともに脆弱な人間が真正面から竜に挑もうなどと思うのだろうか。
あんなでかい蜥蜴を相手にトレジャーハントをキメに来る心意気って、人間にしては相当にヤバいと思う。ファンタジーな世界だから魔法とか使えばできちゃったりしそうな感じはあるけれど、そもそもこの世界の人間に魔法は使えるのだろうか。私は使えないのだが。
――そもそも人間じゃないという可能性もあると思うんだよね。
前に見た姫様周りの人々も魔法なんて使ってなかった。人の能力は私の知っている人類平均値からそれほど逸脱していないような気がする。だとすると、化け物相手に完全に逃げ切っているその人間はオリンピック選手以上の運動能力を持っていたということに。
――だとしても、命知らず過ぎないかな。命を張って勝負にでれば勝算ありそう、とは思えない姿してたけど。
もし私が竜のお宝を盗まなければならないのっぴきならない状況になったとしても、絶対に正面から挑んだりはしないだろう。罠にかけるか見つからない手段を模索するかのいずれか、あるいはその両方。
――姿をさらすこと自体あり得ないと思うんだよなぁ。……わざと人間風な姿を見せたファンタジー住人の可能性……そこから調査しないといけないか。だるいな。はぁ。まじ、はぁ。
脳内ボヤキと共に浮かび上がる今後の課題。人生一人で完結しようという人間の前にまさか探し物クエストが訪れようとは。調査だの遺失物捜査だのに役立つ特技なんて私は持ち合わせていない。私は基本デスクワーカーなのだ。
ということはこの課題、協力者を探すところから始めないといけない、という初手から難易度ルナティック。人間ってほんと一人では生きられないようにできているのだね。
「どうですかコスギ殿! なかなかいい感じに掘れたでありますよ」
「そうですか。ではその穴はそのままにしておくと危ないので埋めておいていただけますか? 終わったら隣に新しい穴をお願いします」
「わかったであります! 今度はもっと早く掘るでありますよー!」
嫌がらせに気づくことなく穴の堀り埋めをしている蜥蜴幼女の様子を眺めながら、私は畑仕事を存外に楽しんでいる彼女に何ともねっとりとした名状しがたい気持ちを抱くのであった。
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