まるっと異世界な日 ④-2-2

◇◇◇◇ヒヴァリ視点◇◇◇◇◇◇


いい匂いがして目が覚めた。


私は凄く寝心地のいい場所で寝ていた。真っ白な布に覆われたふかふかで柔らかい弾力のある寝床だ。


上には太陽を丸く小さく切り取ったような明かりがいくつもある。


上半身を起こした時、私は吸い付くように肌になじむつるつるした服を着せられていることに気が付いた。


ここは人の住処の、たぶん部屋と呼ばれている空間かも。昔母から聞いた話の記憶を私は懸命に掘り返す。


「おなかはすいていませんか」


部屋の扉を開けてオークが声をかける。


私はオークに呼ばれて部屋を出た。外に出るとそこには複数の木のイスと大きなテーブルがあった。


「そこに座って待っていてください」


オークに言われるがまま私は席に着く。と、オークが丸い車のついた大きな箱を押してきた。


箱の上には食べ物らしきものを載せた風変わりな食器がいくつかあり、私がそれらをぼーっと見ているうちにオークは食器をテーブルに並べ終えた。


「ライスとパンどちらがいいですか? 個人的にはハンバーグにはパンが合うように思うのですがごはん派の人もすくなくないですから、好きな方を食べてください」


並べられた肉料理と思われるもの。野菜料理と思われるもの。正体不明の汁。


ライスとパンというのはなんなのか。もしかすると肉か野菜かを選べと言ったのだろうか。


「カトラリーの使い方は大丈夫ですよね? 箸は無理かなと思ったのですがこっちの地方だと手づかみで食べる文化もあるのかなと。無理して使わなくても大丈夫ですので好きに食べてください」


カトラリーとはなんだろう。よくわからない。


選べというなら選ぶが、できることなら全部食べてみたいというのが率直なところだ。


「どうぞ」


「あ、はい、で、あります」


並べられた食べ物はどれもおいしそうなにおいがする。


試しに私は手前に置かれた黄色い液体をなめてみた。


「っ!?」


あまい! そしておいしい!


「それはコーンスープというものです。本来はこの、スプーンというものを使ってこうやって飲みます」


私は見様見真似でオークのやった通りの動作でスープを飲む。


――おいしい! これとってもおいしい!


「ナイフとフォークはこう持って、こうやってハンバーグを食べます」


見様見真似で私はオークのやった通りに銀食器を用い肉の塊を切って食べてみる。


――おいしい! なにこれおいしい! 肉の汁がぶわってでるの美味しい!


「パンは手で取って食べて大丈夫ですよ。こうやってちぎって食べます」


――パンとかいうのも甘くておいしい! もちもちでお腹にたまる感じがする。


オークが器用に銀食器を使ってハンバーグを口に入れた後、追いかけるようにパンを口に入れたのを見た私はそれも真似してみた。


――なにこれ! うましょっぱいのと甘うまいのが混ざってジャスト美味しい! 鼻に抜ける香りが楽しい! パンとハンバーグを一緒に食べると味がいっぱいになる!


私は初めて人型種族の食事を体験した。二つの食べ物を一緒に食べることで広がる味と味のハーモニーの心地よさはまさに筆舌に尽くしがたく。これはもしかすると母が言っていたせっくすにおける男女の機微というものに近しい感覚なのではなかろうか。いや、これはもしかするとせっくすより凄い経験をしてしまったのかもしれない。


――何これずるい! 私達が食べてきた食べ物よりすっごく気持ちがいい! すごい!


そうか。だから母は人間に手を出しては駄目だと――敵対するのは損だと言いたかったのか。


私、今なら母の気持ち、わかった気がします。

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