まるっと異世界な日 ④-1-1
◇◇◇◇ヒヴァリ視点◇◇◇◇◇◇
母が死んで十余年。私は山で暮らしていた。
――大空はお前のもの。舞い上がれ空高く――
母に飛び方を教わり、初めて空を飛んだ時の母の言葉。
嬉しかった。私は空を好きになった。空にはいつだって母がいる。私は、そう思っている。
大空を飛ぶのは気持ちがいい。天気の良い日は必ず私は空を飛ぶ。
太陽を背に翼を目一杯広げ大空を滑空するとお腹がいっぱいになる。一日中空を飛べばしばらく何も食べなくてもいい。
反対に天気の悪い日は飛んでもお腹一杯にはならない。なのでそんな日は、じっと巣穴に籠って眠る。
雨の臭いがしなくなるまで。お日様の臭いがしてくるまで。
そうやって私は何年も過ごしてきた。
これからもそう過ごしていくのだろうと、そのことに何の疑問も持たなかった。
それが間違いだとわからされたのは、しばらく雨が降り続いたある日の事。
私が巣穴で眠っていると、私の大事にしていた母の首飾りを取られた。
巣穴に入り込んでいたのは、布で頭をぐるぐる巻きにした小さな生き物。
人間。
確か母はそう言っていた。姿形は覚えていた。
人間には手を出してはいけない。それが母の教えだったから。だから覚えていたのだ。
けれど私は、人間に首に下げていた母の首飾りを盗られた。
人間には手を出してはいけないと言われたが、人間が仕掛けてきたのだ。やられっぱなしはよくないと思う。せめて首飾りは返してもらわないと。
人間を追いかけ巣穴から出ると、もう人間の姿は無くなっていた。
何処に行ったのかわからない。私は首飾りを人間に盗られてしまった。
頭が怒りで一杯になった。私が一体何をしたというのか。
理不尽。
許せない。
腹立たしい。
人間を滅ぼそう。
私は母の首飾りを返してもらうまで何度でも人間を殺すと決めた。
手始めに人間の国を亡ぼす。確か北に人間の国があると母は言っていた。
北には行ったことがない。北には大森林がある。そこを越えたところに人間の住処があるのだろう。
北だ。目指すは北。私は北を目指し飛ぶ。
私はひたすら北を目指した。
飛び続けることどれくらいか。大森林に入ってしばらくしたころだ。
私に向かってみたこともない太い棒が火を上げながら飛んできた。
当たったら痛そう。瞬時にそう思った。それが攻撃であることはわかった。
私はまた仕掛けられた。きっと人間だ。そうに違いない。何せ私から大事なものを奪ったのは人間だけなのだから。
一度ならず二度までも。
人間はまた私を害する。
理不尽。
許せない。
やはり人間は滅ぼす。
稲妻を吐くのは間に合わない。代わりに稲妻の結界を張る。
思った以上の物凄い攻撃だった。衝撃波が体のあちこちに打ち身を作る。
痛い。
人間絶対に殺す。
そう思って稲妻を吐くのに口を開けたら黒い鳥たちに囲まれた。
さっきまでいなかったはずなのに急に姿を見せた鳥が、さっき飛んできた棒の小さい奴を出した。
人間ではない?
どうして鳥が、私を?
だけれど関係ない。あれはマズイ。痛い奴だ。ブレスをやめて防御。
また衝撃波。
飛ぶのがつらくなってきた。
今度こそブレス、と思ったら、鳥が石つぶてをガンガン飛ばしてくる。
防御を解けない。ブレスを吐けない。
どうしよう。こうなったら体当たりするか。
私は鳥たちに体当たりをして一匹ずつ落としていこうと決めた。
そして翼に魔力を込め動こうとした時。
凄い力の波動を感じた。
本能的に目が向いた先に見えたのは、棒を構えた人間。
人間が棒を投げた。
また棒が飛んできた。
同じ攻撃ばかり本当に懲りない奴らだ。私は一声吠えて全力で結界を張った。鳥たちに体当たりするにも木の棒を防ぐにも有効だと思ったからだ。
そうしたら。
今度の棒は何かが違う。そう気が付いた時、棒は銀色に激しく燃えながらガンガンと薄い氷を砕くかのように私の
そんな馬鹿な。私の全力の結界は神々の異能に並ぶ絶対の防御だって母は言っていたのに。
あっという間に棒が結界を粉々に破壊して、私の右半身を削り取る。
それは一秒にも満たない出来事。何が起こったのかわからなかった。
でも、あぁ、体が壊れる。
怖い。
人間は怖い。
あんな怖い力を持っているなんて。
だから母は人間に手を出すなと言ったのか。あぁ、私はなんてことを――。
私が自分の愚かさを理解した時にはもう、体は落下を始めていた。
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