〇に引かれて善光寺参りな日 ③-1-3

◇◇◇◇◇◇◇◇◇ リンダ視点 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


私を迎えに来たのは奇妙な椅子を押すフルプレートメイルの騎士だった。


人間がいるならオークに頼る必要はない。私はすぐさま助けを求めた。


しかし鎧の騎士は言葉一つ発せず、私の言葉を完全に無視して私を抱きかかえ大きな車の付いた椅子に乗せた。


どんなに話しかけても全く反応がない。まるで術に操られ意思を失っている人形の御ようだ。


騎士は車の付いた椅子を押して建物の外へ私を運ぶ。外へ出てぐるっと建物を半周するとそこには変わった意匠の庭園があり、端の方に巨大な石の塊があった。


「では姫様、こちらにお乗りください」


巨石をよく見れば側面下には大きな車輪がたくさんついている。


オークが巨石に触れると表面が割れ左右に開き、中から小さな談話室のような空間が現れた。


「これは、なんです? コスギ」


「これは……そうですね、馬車の一種とお考え下さい」


これが馬車? 馬が見当たらないのですけど?


「えぇっと? これから馬を連れてくるのですか?」


「いえいえ、この馬車は魔道具でして、魔法で動いているのです」


魔法で動く? 馬車が?


そういえばオークには魔法を使う者がいると聞いたことがある。だがそれは最上位種、少なくともジェネラル級以上の個体だったはずだ。


「コスギ、では彼が御者なのですか?」


「いえいえ、彼女は姫様に不便が無いよう呼び寄せた私の部下です」


「え、……彼女?」


その返答を聞き私は腰を抜かした。


言われて騎士をよく見れば確かに鎧の胸囲部の装甲が少し盛り上がっている。


まさかこのオークがこれほどの立派な鎧に身を包んだ騎士を召し抱えている存在とは。しかもそのうえ自分は魔法を使う?


ハイオーク、いやオークノーブルかしら? 下手したらオークロイヤルという可能性も。


そういえばあの建物も見ようによっては砦か要塞に見えなくもない。


他のオークは見当たらないがよくよく考えればこんな危険な森に一人で棲んでいられるはずもない。


そうか。私にイマイチ忠誠を示さないのは自らも王族であったためか。だとしたら名前の呼び捨てはマイナスでしかない。このオーク、私を小娘と思って今は余裕綽々だがいつ気が変わるか知れたものではないし、今更だと思わなくはないけどそれとなく呼称を卿に変更しよう。


――頭の血の巡りが遅めの個体みたいだし、きっと大丈夫なはずなのだわ。


私はオークを見ないようにしつつ騎士に手伝ってもらってオークの馬車に乗り込む。


騎士は椅子を折りたたむと小脇に抱え、馬車に乗り込み扉をしめた。そしてそのまま一番奥の位置へと移動する。


「では、出発します」


オークの声が聞こえたかと思うとにわかに天井と壁が明るくなる。


「え?」


少しして車内がわずかに揺れ、同時に私は驚きの声を上げてしまった。なんと壁に掛けられた絵画と思っていたものの絵が動き出したのだ。どうやらそこに描かれていたものは絵ではなく外の景色であったようだ。


凄い。こんなにもたくさんの魔道具を使っているなんて。


こんな乗り物は初めてだ。椅子もふかふかで普通の馬車とは比べ物にならない乗り心地。多少揺れはするが反動は優しくかなり抑えられている。


「姫様、王都はどの辺にあるのでしょうか。地図を指さしていただけますか?」


オークの声が車内に響く。これも魔法なのか、と辺りを見回していると車内両側の席を隔てているテーブルが輝いた。


テーブルに絵が浮かぶ。そこに映し出されたのは遥か上空から地上を見下ろしているのではないかと思われる景色だ。


凄い! こんなすごい俯瞰地図は初めて見た。これも魔法なのだろうか。


「もっと西です。この地図より先の」


私がそういうと縮尺が変化する。地図の視点は更に上空からのものとなり、やがて王都が見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る