〇に引かれて善光寺参りな日 ③-1-2
後部席にあった火器管制制御盤をオミットしたスペースにはモニターと冷蔵庫を設置してあるが、現地人の姫に何が何かを理解させるには教育が必要だ。そんな時間は取りたくない。そうなると世話役が必要――私はあれこれとしばし考えて、やはり
――後部座席に左右を分けるカーテンをつけたほうがいいな。
王都の場所がわからないのでどのくらい時間がかかるかの目途は立たない。となれば野宿の心配も必要だろう。害獣の存在を考えれば車中泊以外の選択はないわけで、そうなると姫には後部座席でご就寝いただく運びとなる。暇を持て余してマキちゃん観察などされたら面倒だものカーテン仕切りは必須だ。
マキちゃんは人間そっくりだが完全に人間と言うわけではない。触れば毛が人間のそれとは少し違うとわかるしよく見れば目玉の質も人間とは少し違うとわかる。皮膚は人間そのものの出来だが爪の質感は少し違うし、球体関節だからか人間ではあり得ない動きをすることもしばしばある。全身鎧を着てもらうので誤魔化せるとは思うが用心に越したことはない。
――私の寝場所は……運転席を潰せばいいか。
この車の中部座席は車体中心部に位置する一席のみ。そこは運転席の複座ないし独立コックピットのような作りとなっており、両隣には車を制御するコンピュータやモニターが置かれている。元々は武器弾薬置き場だったが機銃をオミットしたためそれらが必要なくなり、代わりに電子機器を積めるだけ積んだのだ。
中部座席の椅子の位置を調整し運転席をフラットにすれば足を伸ばして寝るスペースを確保できる。車の制御はコックピット操作に切り替えておこう。
――前と後ろで分けられているとはいえ、姫は納得するだろうか。
そこでガタガタ言われたとしても私が外で寝るという選択はない。それで姫が騒ぐなら彼女には外で寝てもらうだけだ。
――ただ、トイレは外でしてもらわなければならないな。
現地人に携帯トイレの使い方の説明とかしたくない。
とはいえ男のように立ちションしてくれというわけにはいくまい。後ろから女の両足を抱きかかえて「はいおしっこしてくださいね」なんて介護も私にはできない絶対に御免被る。相手だって嫌に決まっているだろうしそもそもあの女に触るのは無理だ。どんな言いがかりをつけられるか知れたものではない。
だが姫が一人で用を足すのが困難なのは明らかなわけで。やはりトイレに介助は必要だろう。そうなるとマキちゃんに世話をお願いするしかないのだが、いくらマキちゃんでも姫を抱えておしっこをさせるというのはハードルが高いのではなかろうか。
――車椅子と座ったままできる介護用トイレを積むしかないな。そうなると洗浄に水がいるな。結局タンクを持っていくことになるのか。
そうするためにはルーフボックスを取り付ける必要がある。面倒なゲストがいるのだ、荷物を増やして居住性を犠牲にすることはできない。
あぁもうだるい。本当に面倒くさいことこの上ない。けれどこれ以上の案が浮かばないので仕方がない。とりあえずこれで実際にやってみるしかない。人生は結局トライアンドエラーの積み重ねでしかないのだから。
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