メッシーアッシーな日②-2-2
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇リンダ視点◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
オークが食事を運んできた。
何が起こっているのか全く分からなかった。
二メートルに近い巨漢。
肌の色は黄色く顔は微妙に平たい。
目元の造形は悪くなくも見えなくもないが顔についたぜい肉でよくわからない。
というかオークだよね。オークでしょ?
えぇっと、まさか、オークではない?
ゴブリンは肌が緑色だからすぐにわかるがオークの肌は黄色い。目の前のソレも黄色い。
しかし髪の毛が少しだけある。
それに人語をしゃべった。しかも口を開いた時牙が見えなかった。
なにより人のように衣服を着ている。オークも知能があるので人間の装備を奪い着ている場合もあるが、ソレの着ているものは防具ではなく服だ。
ひょっとしたら、人間なのだろうか?
でも人間はあんなに頭がはげ散らかしてはいない。
どっちだろう。わからない。
そんな風に考えていると、オークは食事を置いて出て行ってしまった。
オークはここから出ていくならいつでも出て行っていいというようなことを言っていたが、そうしたくても私は動けない。
片足が欠損している状態でどうやって歩けというのだろう。
片腕では魔物と戦う事すらできない。
そもそもここはどこなのか。
建物は立派だが、この国の建物の造形とはかけ離れている。
寝ているうちに異国の地にでも連れてこられたのだろうか。
わからない。現状を把握するにもそのための手がかりが何一つとして見当たらない。
はぁ、本当に困った。
私はオークが置いていった食料をぼんやりと眺める。
毒は入っていないと言っていたが、本当に大丈夫だろうか。
普通に考えれば罠だろう。
だが今更毒殺するというのはない気がする。私の手当てなどせずに放置しておけばきっと私は死んだだろうから。
ならば考えられるのは眠り薬か。
オークは私を薬で眠らせて手籠めにするつもりか。オークの中には特殊な性癖を満たすために獲物を捕らえじっくり嬲る者もいると聞く。
私を助けたのはあんなことやこんなことをするためなのでは。とても口には出せないようないやらしいことをするためだとしたら。
あのオークはそんな雰囲気を持っていた。あの禿げ散らかし具合は性欲がたぎっている証拠なのでは。
「…………」
私は何となく、用意された料理に目をやった。
なんというかこの料理。香りが食欲を刺激する。
食事の臭いをかいでいると、例えこの場で犯されようともここは食べて力をつけるべきではないか、という気がしてきた。
私には王族として民を救う義務がある。処女を散らされるのは我慢ならないが、全ては生きてこそだ。そんな風に思えてくる。
生きるためだ。食欲に負けるわけではない。オークの罠に屈するわけではない。これは高度な戦術的判断によるものだ。
そう、ひとくちだけなら。
ひとくちだけなら大丈夫だ。
私はスープを飲んでみた。
「っ?! (おいしい! おいしいわ! この不思議な香りと、深いコクは何なのかしら!)」
気が付くと、私はマナーも忘れだされた食事を完食していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は二階の事務所のモニターで女の様子を見ていた。
女の行動にはまったく興味はなかった。
ただ女が出ていくなら、出ていった瞬間家の鍵を閉めないといけないと思って見ていたのだ。
やはり女は出した食事に手を付けずにいた。
ほら出てくなら出てけよ、はやく。
そんなことを思いながら、私はマイパッドで電子書籍を読みながらチラチラ女の同行を確認していた。
南斗の爪は面白いなぁ。わが生涯に一片の悔いなしって何度見てもカッコいい。
などと思っていたら、女がすごい勢いで飯を食っていた。
なんぞ。
なにがあった。
ちょっと目を離した隙にいったい何があったというのか。
女は食事を完食していた。
そしてあろうことか、布団を直してそこにもぐりこんでいた。
なんだと。
飯を食ってそのまま昼寝をしようというのか。
なんて厚かましい女だろう。まさに女。女の中の女。ずうずうしいオバケだ。
おいおいせめて食べた食器はそろえて外に出しておくくらいしようよ。食いっぱなし放置かよ。
なぁ普通さ、ごはん出してもらってるんだからさ、食べ終わったらお礼を言うために私を探しに外へ出るとかしない?
なんでソッコー寝てるんだよ。
主婦か!
しかも誰もいないからって皿を舐めるなよ。
見てたよ。食い足りねーのかって!
私はマイパッドを机に置くと、隠しはしごから寝室に降りて寝室の隠し扉からキッチンへ移動する。
まぁどんだけ食うかわからなかったから食後のお茶とデザートを置いてこなかったからな。
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