2月15日(土)

昨日のバレンタインデーにチョコを作らなかった理由はいくつかある。ルールを破って先生に怒られたくなかったし、特に好きな男の子がいるわけでもなかったし、何より、ずっと前から約束していたのだ。明日、美世ちゃんと玲ちゃんと紗綾ちゃんと四人でチョコパーティーをするって。


今日は朝からお母さんと一緒にチョコを作った。ただのチョコじゃない。生チョコだ。口の中に入れたらとろっと溶けて、甘さがじわじわぶわっと広がる、お母さんの特製レシピだ。作ったら一晩冷蔵庫で冷やして、玲ちゃんの家まで持っていく。それぞれチョコを作って、持ってきて、みんなで食べるのだ。明日が楽しみで仕方ない。


焼きあがるまで、お母さんと昨日のバレンタインの話をした。クラスの女子がチョコを校舎裏のロッカーに隠してたことを話したら、お母さんは少しぎょっとした顔で「うそん」と言った。


「あのロッカー、お母さんが小学生の頃にね……」


三十年前、お母さんがあの小学校に通っていたとき、あのロッカーで一人の同級生が亡くなったらしい。血だらけになったロッカーはそれ以来使われなくなって、でも捨てようとしたら変なことが起こって、仕方なくあそこに置きっぱなしになっているんだとか。


いつもロープで囲われてるし、なんだか薄暗くて不気味だから近寄ったことはなかった。そんな話があったなんて知らなかった。近寄らなくて正解だったかもしれない。


昨日あのロッカーにチョコを隠してた女子たち、大丈夫かな……?

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