第33話【五月四日~内藤省吾~】
ナインハーフという映画があった。
ほぼ、ポルノ映画みたいな映画だ。九週間半、男女がいろんなエッチなことをエスカレートさせていく映画だ。白状しよう。男子高校生でキスもしたことのないぼくには、意味が分からなかった。でも、なにか重要なものが隠されているような気もする映画。大人になってから、もう一度見る映画リストに入っている。
ナインハーフとは随分違うけれど、ゴールデンウィーク中のぼくは色ボケだったと思う。
ゴールデンウィークが明ければ、映画研究会を含む四十二の零細部活はほぼ全滅する。映画研究会には守るべき部員もたいしていないというのもあるけれど、それでもぼくは代表失格だ。ゴールデンウィーク後半の三日間。ぼくは毎晩、窓越しに夜通し通信対戦をして、昼間は香織にしがみつかれて眠った。
香織が部室に来なかった時間。香織が映画研究会を辞めると言った瞬間。
そういうものが、ぼくが本当はなにが欲しかったのかをぼくの心に知らせていた。ぼくには映画も、映画研究会も大切だったけれど、それでも香織と過ごせる時間ほど大切じゃなかった。
今日もぼくの胸の上に頭を預けて、香織がすやすやと無防備に眠る。
寝息。体温。口の端からヨダレを垂らして眠る香織。
それがぼくには、なにより大事。
香織が落ち着いて安心してお弁当を食べられる部室を守りたい。それが、ぼくが映画研究会を守りたいと思った理由。
それを思い知った。
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